思い過ごしであれば良いのだが -King-Ⅲ【予感】⑤
レオンの件もアルマンの件も、魔王の封印が破られる間近に起こった事であり、どちらも同時に多数の命や戦力が奪われていて、一見すると魔王復活の為の仕上げに必要な生贄を選んだのではないかと思える流れだが、魔物の手強さを考えるとアロイスの言う通り、直接ロガールや他の国に攻め込んだ方が邪魔者も一掃できる上に多くの生贄を得られ、非常に効率が良い。(結界はあれど、レオンさえも凌駕する魔物ならば、多数で攻め込めばそれを破る事など容易いだろう)
それなのに、遭遇した魔物のどちらも、そうしなかった。
もしも本当にアロイスの指摘通りだったとすれば、今回アルマンが遭遇した魔物も、封印を解く為の仕上げなどと言うよりは、もっと別の目的で動いていたと考えた方が自然だ。
しかし……、
「しかし、三代目勇者の時にはそんな魔物が出たと言う報告はなかったはずでは?」
フシャオイの考えていた事を代弁するかのようなシルベルトの反論に、アロイスは肩を竦めて見せると、
「だってさぁ、僕がもし封印を解きたい側だったとしたら、本来こう言う仕事はこっそりやると思うよ? もし想定外の邪魔が入って失敗したら嫌だし……。そもそも論として、こんな派手なやり方するなんて、封印云々以前にさ、誰かに存在をアピールしてるとしか思えないんだけど?」
魔王ってそんな目立ちたがり屋さんなの? と呑気に話すアロイスに誰もが口を噤んだが、彼は意にも返さず、
「それに、三代目勇者の時にはそんな魔物は出なかったって言うけど、出なかったんじゃなくて、出たけど報告がなかったって可能性もあるんじゃない? 例えば……、何か想定外のトラブルがあって、報告が出来なかった、とか。まあ、僕の勝手な考えだし、今となっちゃ、確認のしようがないけど……」
一通り話し終えた所で、皆黙ってしまった事に、アロイスは不思議そうに首を傾げたのである。
存在をアピールするかのような派手なやり方。
魔物が出なかったのではなく、報告しなかった可能性。
アロイスの指摘に、三代目勇者と討伐へ参加したシルヴィオが何か思い当たったのか、珍しく真剣な表情で考え事をしている。
また、フシャオイも彼同様、三代目勇者の件に関して心当たりが全くないわけではなかった。
ただ、そうであって欲しくないと言うのが本心だった。
三代目勇者が召喚された時、戦う術を持たないただの少女であった勇者の護衛に、フシャオイは信頼しているセシリヤを任命した。
セシリヤならば、何かと不安を抱える三代目勇者の良い相談相手になってくれるだろうと考えたからだ。
しかし、セシリヤは三代目勇者自身から任務中の負傷を理由に、護衛から外されてしまった。
また、それまでまことしやかに囁かれ続けていたセシリヤについての不穏な噂が本格的に流れ始めたのも、その頃からだ。
そして今、セシリヤが負傷し護衛任務を外されるに至るまでの出来事を知る者は、彼女自身と……、役目を果たし、元の世界へ帰った三代目勇者のみだ。
それを探ろうにも勇者は既におらず、当時者であるはずのセシリヤに話を聞いても、不自然な程に「怪我をしていたせいで任務中の記憶がない」の一点張りで確かめようがなかった。
ただの思い過ごしであれば良いのだが、状況からも三代目勇者とセシリヤの間に何かがあって、それを隠しているような気がしてならない。
先程から何かを考え込んでいるシルヴィオの様子も気になるが、ここで話を公にする事は恐らくセシリヤも望んではいないと考えた結果、後日、改めて彼女とシルヴィオから話を聞く事に決め、まだざわついている一同に静まるように声をかける。
フシャオイの一言で静まり返った円卓の間へ、慌ただしく伝達係が飛び込み一報を叫んだのは、その直後の事だった。
【END】




