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【完結】異世界追想譚 - 万華鏡 -  作者: 姫嶋ヤシコ
第一部

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思い過ごしであれば良いのだが -King-Ⅲ【予感】④

「話は少し逸れましたが、どんな魔術であれ、効果を弱める、または無効化させるには、術者と同等……、もしくはそれ以上の潜在魔力が求められる為、第二騎士団を始め、その他の団についても、より一層の警戒が必要かと思われます」


 そのような魔物が増える可能性もありますので、と続けたマルグレットの言葉に、シルヴィオも大袈裟な程に頷きながら、今後は偵察任務でも魔術団の協力が不可欠であると仰ぐ。


 確かに、魔術よりも剣術に長けている騎士にとっては分が悪い話だ。


 いくらイヴォンネがそれを解除できるとは言え、扱えるのは今の所彼女だけしかいない上に、現地ですぐにそれを行えなければ意味がない。

 そうなると、事前に魔力の低さをカバーできる魔術師を数名編成しておいた方が良いだろう。

 フシャオイがシルヴィオの意見に同意し、イヴォンネに協力を頼むと、彼女は浅く頷きつつも、よろしくと馴れ馴れしく手を振っているシルヴィオから嫌そうに視線を逸らした。


 それにしても、三代目の勇者が魔王を封印してから、間もなく二十年が経過しようとしているこの時期に、今までにない程厄介な魔物が出現したものだ。


 封印の力が弱まるほどに魔物の数と襲撃は増え、その脅威が日を重ねるごとに大きくなっているのは把握していたが、まさかここまで変化しているとは思わなかった。

 封印が解ける度に異界の勇者を召喚し、封印しては解けの繰り返しで、徐々に魔物も手強い物へと変貌して行くのだから質が悪い。

 年月が経過する度に、まるで学習でもしているかのようだ。

 今までのように、一筋縄では行かないだろう。

 それでも、今回の戦いで何としてもこの繰り返しに終止符を打たなければならない理由がフシャオイにはある。

 本来であれば、こちらの世界の事情から始まった事に自分と同じ異界の人間を巻き込みたくはないのだが、その力なくして、魔王と戦えない事はどうしても覆せなかった。

 そして、今回召喚される()()()()()()()だろう人間には、伝えておかなければならない事も山ほどある。


 心苦しさに溜息を吐き出すと、円卓に座る一人が手を挙げているのが見え、


「レオン、何か気になる事でも……?」


 会議が始まってから今まで、何かを考え込むようにずっと黙っていたレオンの様子が気になっていたのか、その場にいる全員も彼を注視し、その言葉を待った。


「第二騎士団が今回遭遇した魔物と、数年程前から各地で目撃されている魔物の特徴が似ているような気がします。報告にある魔物の姿形は全く別のもので、魔術に関しても使用は認められない個体ばかりでしたが、応戦し討った際、いずれの魔物も跡形もなく消えていると言うのが、どうにも引っかかります」

「……そう言われてみれば、ここ数年で魔物の死骸処理の依頼も、減っていますね」


 レオンの発言から始まり、各々の口からはそれに紐づくかのような証言が出てくる。

 確かに、通常魔物は討てば死骸が残り、放置すると流行り病の原因や、最悪アンデッドになる場合もある為 (人間も同じである)、ロガールでは魔術団が死骸の焼却処理を請け負っているのだが、魔物が活発になっている割には討伐後の死骸の処理の数が少なすぎるとイヴォンネは続けた。


「処理が減ったんなら手間も省けて良いんじゃねーの? その分、魔術団の負担も減るんだろ? 羨ましい限りだね」

「レナード団長の言う通り負担は減りますし、余力があれば、その分王都の結界強化や範囲の拡大に回せます。しかし……」

「是非そうしてくれよ。こっちは連日王都周辺の魔物討伐に追われて、休む暇もねぇって不満抱えながらやってんだ」


 ここ最近では王都付近でも多くの魔物が目撃され、第七騎士団がその討伐に追われていることも聞いている。

 元傭兵出身が多く好戦的な騎士が大半とは言え、それも連日となれば流石に文句の一つでも言いたくなるだろう。

 レナードの態度を窘めるイヴォンネを諫めると、今度は深刻そうな顔をしたジョエルの姿が目に入り、発言を促してみる。


「つい二日程前、第四騎士団の救援に当団副団長が駆け付けた際、第四騎士団のアルマン副団長が応戦した魔物も同じように消失した事を確認しています。それから……、気になっているのは、その魔物が何かを誘き寄せるかのように罠らしきものを派手に張り巡らせていたと言う点です」

「明らかに罠だと解っていながら考えなしに特攻したのなら、アルマンの失態で、第三騎士団及び医療団へ多大な面倒をかけた。申し訳ない」

「シルベルト団長、お気になさらずに。医療団としても、犠牲になった騎士を助けられず申し訳ありませんでした」


 第四騎士団長のシルベルトが深々と頭を下げると、マルグレットとジョエルがそれを制止した。


 また話が逸れたような気がするが、ジョエルの発言も非常に気になるところだ。

 今まで罠を張り襲う魔物にはいくつか遭遇した事はあったが、今回のように罠だと言わんばかりに派手に誘き寄せるような魔物は見たことがない。

 実際、フシャオイ自身も目にした事はなかった。


 もし、あるとするのなら……、


「レオン、お主はどう考える?」


 二代目勇者と共に魔王の封印へ赴いた一人であり、その中でも勇者の信頼を最も得ていたレオンは、封印の地へ偵察へ向かう道中、たった一度だけその手の魔物に遭遇し、窮地に陥った事があった。

 どうにか応戦し切り抜けたが、それが原因で主戦力でもあったレオンが深手を負った事により勇者一行は撤退を余儀なくされ、それから間もなくして魔王の封印が完全に解けてしまったと記憶している。


「……あの失態は、忘れておりません。今思えば、我々の思っていた以上に早く封印が解けてしまったのも、あの時に応戦した魔物に何か関係があったのかも知れないと……、そう考えます」

「確かに……、場所は違えど、あの時の状況に酷似している気がします」


 当時、レオンの窮地に駆け付けたジョエルがそう呟くと、レオンもそれに同意するように頷いた。



「派手に誘き寄せて、見せつけるように獲物を蹂躙するなんて、随分と悪趣味なショーだよねぇ」



 ふと、誰かの口から出た言葉にその場の全員が動きを停止させて声の主へ視線を寄越せば、その先には第六騎士団長のアロイスが退屈そうに円卓の上の書類を眺めていた。


「レオン団長ですら追い詰められる程の魔物なのに、刺そうと思えばすぐにでも刺せる止めも刺さないで、散々甚振って弱らせた挙句に結局返り討ちにあってるんでしょ? 僕が団長クラスを追い込めるくらいに強い魔物なら、直接国に攻め込んで滅ぼしちゃった方が、新たな勇者様も召喚出来なくなるし、魔王の復活に必要な生贄も沢山出来て一石二鳥で楽だって思うんだけど……。でも、レオン団長が遭遇した魔物も、今回アルマン副団長が遭遇した魔物も、そうしなかった。ただ残虐性が高いだけの低能な魔物なのか、それとも、もっと別の目的があって動いていたのか……、イマイチ理解できないんだよねぇ」


 やる気があるのかないのか、掴みどころのないアロイスだが、決して頭の悪い人間ではない彼の指摘は、何故だか妙にしっくりと、抜けたパズルピースをはめ込むようにフシャオイの頭に響いた。


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