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【完結】異世界追想譚 - 万華鏡 -  作者: 姫嶋ヤシコ
第一部

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術(すべ)が、欲しい -Dino-Ⅱ 【黙秘】②


 第四騎士団監視区域に出現した魔物の巣窟の討伐に当たっていた部隊が全滅したと言う報せは、第三騎士団にも届いた。

 帰還期日を過ぎても戻って来ない部隊に痺れを切らし、現地に足を運んだアルマンの部下からの報せを真っ先に受けた医療団からの報告だった。


「討伐部隊を全滅させたのは、討伐対象とは別の魔物若しくは賊であると推測されています。第四騎士団の精鋭部隊が全滅ともなると、すぐに現場へ救援に行かなければ今度はアルマン副団長を含め、今そこへ向かっている医療団も危険です」


「今動けるのは、第三騎士団(ここ)だけか」

「はい。他団については、既に別の討伐へ向かっている為に人員をすぐに確保するのは難しいとの事でした」


 ディーノの目の前で片膝を着き、正確な情報と他団の動きも併せて伝えた医療団員は全てを話終えると唇を引き結んだ。

 その首元から時折除き見える包帯が痛々しいと見当違いなことを考えながらも、ディーノは器用にこれから救援へ向かう部隊編成に思考を巡らせる。

 現在はジョエルが国境にある砦へ駐在し不在のため、今は副団長であるディーノが団に命令を下す権限を持っているからだ。


「詳しい報告、助かった。セシリヤさんも向かうんだろ?」

「はい。既にフレッド副団長が救援部隊を率いていますので、私もこれで失礼致します」


 逼迫している最中でも律儀に挨拶を終えたセシリヤは、微かな甘い残り香だけを残して直ぐに部屋を後にした。

 今回の救援要請は、医療団にとっても重大な仕事になる。

 被害が甚大な程、彼らはその身を削りながら瀕死に直面している騎士を救う為に全力を注がなければならないからだ。

 戦闘に参加しない代わりに課せられている医療団の重要な役割は、他団が思っているほど甘くは無いことを、ディーノは知っているつもりだ。

 臆病だ、お荷物だなどと罵られ、時に理不尽な暴言や暴力を受けることもある彼らは、誰よりも命の重さを知っている。

 だからこそ一つでも多くの命を救う為に、その身を削ることも厭わない。

 そして、医療団のサポートを受ける騎士団もまた、彼らを護る義務があるのだ。


 潜んでいると推測されているモノが何であるのかも気がかりだが、恐らく初めての惨状を目にし、冷静ではいられないだろうアルマンの振る舞いも気にかかる。

 医療団の面々へ迷惑をかけない事を祈りながら、頭の中で纏まった部隊編成を確認し、招集出来る騎士に連絡を取るとすぐに帯剣して部屋を出た。



 報告を聞いた限り、第四騎士団の部隊が遭遇したのは厄介なモノであることは間違いない。

 団長・副団長を除く精鋭騎士だけで巣窟の掃討を完遂したにもかかわらず全滅しているのだから、確実に、彼らの予想を上回るモノが存在している。

 学院生時代に遭遇した、魔術団の張った結界を容易に消滅させてしまう魔物も存在しているのだ。

 多くの同期生とセシリヤの家族の命を奪った、あの魔物のような……。


 一瞬の油断も許されないと、乗った愛馬の手綱を引く手に力が入った。




  *




「ディーノ副団長、あれは何でしょうか?」



 城を出発してから程なくして、並走していた騎士が指差した方向には、細い糸状ものが規則正しく張り巡らされているのが見え、蜘蛛の巣を思わせる様な形をしているそれは、獲物をおびき寄せるかのように大きくゆらゆらと空中を漂っていた。

 場所は第四騎士団が全滅した地点よりも離れているが、あれが彼らを襲った魔物なのだろうか。

 しかし、本体と思しき姿は見えず、不審に思ったディーノは得体の知れない奇妙なものに不用意に近づくことは危険だと判断し、部隊の半数に道を迂回させ当初の目的地へ向かうことを命じ、残った半数でこの場に留まり漂う奇妙な物体の様子を探る事にした。


 本当にあれが魔物で、仮にその罠だったとしたら、これ以上の接近は相手にとって思う壺だ。

 ……とは言え、あれが罠だったとすれば随分とお粗末なものだ。

「これは罠ですよ」と言わんばかりにハッキリと姿を見せているのだから、あれに引っかかるとなると、よほどの単細胞か感情に任せ冷静な判断が出来ない状態の人間だけだろう。


 ふと、それに当てはまる人間が身近にいたような気がした所で、魔物とは異なる別の気配を察知する。


「……何か、近づいてるな」


 生粋の人間であるディーノは目も耳も人並みだが、片目を失ってからはそれを補うかのように敏感に気配を感じ取る事が出来るようになった。(それでも獣人達には劣るのだが……)

 怒りにも似たような感情を含んだ刺々しい、けれどどこか不安定な気配に覚えがあり、思わず眉を顰める。

 この気配はここからそう遠くはない場所にあり、あと数分もすれば、きっとあの奇妙な物体へと辿りつくだろう。


 言うまでも無く、その気配はアルマンのものであるとディーノは確信した。

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