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【完結】異世界追想譚 - 万華鏡 -  作者: 姫嶋ヤシコ
第一部

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術(すべ)が、欲しい -Dino-Ⅱ 【黙秘】①

 昨日アンジェロから手渡された報告書に目を通し終えたディーノは、机に書類を投げ出し頭を悩ませた。


 第三騎士団監視区域で目撃された新種の魔物についての調査結果の中に、高度な魔術を使用する個体がいる事が記されており、討伐任務へ当たる際にはある程度の魔術に対する抵抗力を持つ者……、つまりは備わっている魔力が大きい者の編成が必須となっていて、この第三騎士団内でそれに該当する人間など数える程度である事を知っているが故の悩みだった。


 ロガール騎士団は、剣技を得意とする騎士団と魔術を得意とする魔術団で別れている為、精度が高くより多くの魔術を扱える魔力の持ち主は、極一部を除き魔術団へと流れて行ってしまうのが実情だ。(医療団はまた別枠である)

 故に騎士団に魔力の高さを求められても、それに応えられる者は半分にも満たない訳だ。

 ディーノもジョエルも魔術の心得はあれど、魔力の高さを求められれば答えは「否」だった。

 流石にこれは魔術団にも応援要請を出すべき案件だろうと判断したディーノは、現在、国境の砦に駐在しているジョエルの帰還を待って指示を仰ぐ事に決め、次の書類に手を伸ばした所で執務室の扉を叩く音に気がつき、すぐに入室許可を出した。


「ちょっと失礼するわね」

「イヴォンネ団長、お疲れさまです」


 騎士団のものとは違う高級感のある素材のローブドレスを纏い、どことなく近付き難い雰囲気を醸し出している彼女は、魔術団の団長である。

 団は違えど目上である彼女の姿を目にし、律義に立ち上がって挨拶をするディーノに答えるようにチラリと視線を寄越したイヴォンネは、持っていた布袋を手渡すと傍にあった応接用のソファに浅く腰かける。

 お茶だけでも用意すべきだろうかと考えたディーノだったが、考えている事を読み取ったらしいイヴォンネはお構いなくと片手で制し、それよりも渡した袋を開けて欲しいと続け、言われた通りに閉じた袋の口を緩めると、中には控えめではあるが変則的に光る小さな石が一つだけついたシンプルなブレスレットが入っているのが見えた。


「以前、魔術に対する抵抗力を上げられるような魔具を作れないかって言ってたでしょう? これ、別件の魔具を実験で作ってた時の偶然の産物だけど、折角だし、渡しておくわね」


 確かに数年前、自分ではどうしようも出来ない弱点をどうカバーするか悩んでいた時、たまたま魔術団の魔具研究を目にする機会に恵まれ、そこで会ったイヴォンネに何気なくそんな話をした記憶がある。

 しかしまさか、彼女がそれを覚えていてくれたとは思いもしなかった。


「抵抗力を上げるって言うよりは、自分の魔力を一時的に増幅させて相手の魔術の効果を半減させる程度のものだからあまり期待はできないし、石の強度もたいしてないから反動を吸収するとすぐに壊れるわ。だから使えるのはせいぜい一回。身に着ければすぐに効果が出るから、使う場面はよく考えてね。とりあえず、効果があれば本格的に魔術団で開発研究させたいから、使用したら結果報告は必ずしてちょうだい」


「ありがとうございます、 必ず報告します」


 良い報告を待っているわと執務室を出て行くイヴォンネを見送り、止まっていた書類整理を再開しようとした所でイヴォンネと入れ違うように執務室に入って来たのは、第一騎士団副団長でありディーノの後輩でもあるクレアだ。

 今日はやけに来客が多い。

 珍しく騎士団兵舎に足を運んでいたイヴォンネの姿を見送っているクレアに何の用かと訊ねれば、彼女は第一騎士団の報告書の中に第三騎士団宛てのものが入っていたから届けに来たと、持っていた書類を机に置いて見せる。

 慎重なアンジェロにしては珍しいミスだと思ったが、大方クレアを目の前に意識をしすぎて焦ったのだろう。

 学院生の頃から(何がとは言わないが)少しも進展していなかった事に苦笑すれば、当事者でありながらも全く気付いていないクレアが不思議そうに首を傾げていた。


「悪いな、忙しいのにわざわざ届けに来てもらって」

第一騎士団(うち)はまだ人員にも余裕があるので平気ですよ。それよりも、他の団ですね。討伐任務が急激に増え始めて人員も不足してるとか」


 確かに、ここの所ひっきりなしに騎士団が討伐へ出発する姿を見ている。

 国境にある砦にも各団交代で駐在しなければならない中、討伐で人員を割かれてしまうとかなりの痛手だ。

 討伐から帰還しても無傷である事は少なく、騎士達の回復を待つ期間も考慮しなければならない為に、常にギリギリの人員で回しているのが現状だった。


「そう言えば、昨日は第四騎士団も討伐任務へ出発してましたよ」

「シルベルト団長が不在の時に、あのアルマンの采配で大丈夫なのか?」

「騎士団に入団してから彼なりに痛い目にもあってますし、流石にバカみたいな真似はしないと……、しませんよね?」


 学院生時代、アルマンが数々の問題を引き起こしては彼の先輩指導員としてその処理に追われていたディーノは、あいつなら大丈夫だとは胸を張って言えず、クレアの不安そうな問いかけにどう答えるべきかをじっくり考えた結果、


「お前やアンジェロみたいなストッパーがいないからな……」

「……何事も無ければ良いんですけど」


 アルマン・ベルネックと言う人間を良く知っている二人だからこその答えに、なんとも微妙な空気と不穏な気配が、予感が、執務室を取り巻いた。




【13】



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