大事な何かを護らなければならなかった -Leon- 【記憶】②
思えば、入団当初に配属された第七騎士団で苦労していた時期も、何かと気にかけてくれていたのは、少し先に騎士団へ入団していたセシリヤだった。
出自不明、加えて人の身でありながらも不老長寿と言うだけで偏見は避けられず、いくら正当な功績を上げた所で見向きもされない事に幾度となく心を折られそうになっても、彼女だけはそれを讃え、何よりレオン自身を見てくれていた。
この世界に溢れる差別や偏見など、まるで関係ないと言わんばかりに。
セシリヤの考え方と姿勢は当時、一部から反感を買う結果となって不測の事態に陥った事もあったけれど、「間違った事はしていない」と決して屈する事はなかった。
あの頃、もしも彼女がいなければ、今の自分はなかったのかも知れない。
だから……、と言う訳ではないのだけれど、彼女がその心を折られた時には力及ばずとも支えになりたいと思っている。
しかし、セシリヤは何があっても決して助けを求める事はしなかった。
仲間を護る為に、たった一人で魔物の群れに立ち向かい大怪我をした時も。
助けた仲間に化け物と罵られた時も。
深い悲しみに打ちひしがれた時も。
戦場で自刃を選んだあの時も。
立ち直り、生きる為の支えを見つけ、そしてそれを失った時でさえも。
何も、求めなかった。
何かを求め手にする事を諦めているかのようなセシリヤを、遠くからただ見守るだけしか出来なかった。
騎士団を去り、国からも去るつもりだったセシリヤを引き止め、第一騎士団へ移ることを改めて提案しても彼女は首を縦にはふらず、結局、その身はジョエルの進言と王の一声で親交の深かったマルグレットの下へ置かれる事になり、結果に安堵はしたものの、やり切れなさだけが今も心に残っている。
セシリヤは、ジョエルのように、マルグレットのように、ただ寄り添う事すらもさせてはくれないのだ。
何故、そこまで頑なであるのかを問う事も出来ないまま、長い間互いに微妙な距離を保っている。
安易にこの場所から踏み出せば、その均衡は崩れてしまうだろう。
故に差し伸べた手が、届くこともない。
すぐ目の前を歩いているはずなのに、随分と遠くに感じる小さな背を見つめていれば、
「以前いらっしゃったあの女性は、どうされていますか?」
セシリヤの口から出た言葉に驚き、思わず足を止めてしまった。




