世界に、激震が走った -All- 【終結】①
世界に、激震が走った。
亡国ストラノ王国国王の異母兄弟である、テオバルド・ウォートリーの血族と見られる女性の存在が明らかになったからだ。
彼女の名前はセシリヤ・ウォートリーと言った。
しかし同時に、テオバルドの妻・アンリエット・ウォートリーが"禁忌魔術"を作った張本人である事も判明した為、現在血族と見られるセシリヤ・ウォートリーは査問会の監視下に置かれている。(事実上の軟禁である)
万が一セシリヤ・ウォートリーが"禁忌魔術"について何か知っていた場合、此度あった戦いのように彼女が脅威になる可能性があるからだ。
査問会の発表後、セシリヤ・ウォートリーは査問を受け、身の潔白を主張。
彼女はウォートリーの血族であることを全く知らず、尚且つ"禁忌魔術"についても一切の知識はないと供述したが、査問会はこれを撥ね退けた。
来る日も来る日も同じ回答をするセシリヤ・ウォートリーに査問会は呆れ失笑し、事実とは異なる供述を強要する事もあったが、彼女は決して折れなかった。
ある時から、セシリヤ・ウォートリーが軟禁されている査問会の建物の周囲に、多くの人々が集まるようになった。
皆、セシリヤ・ウォートリーに事実を認めさせようと抗議しに来たのかと考えた査問会は、安易にその門扉を解放した。
抗議の声が届けば、流石にセシリヤ・ウォートリーも諦め認めるだろうと思ったからだ。
しかし実際は、査問会が思っていたものとはまったくの正反対であった。
集まった人々は、門扉が開かれるなり即座に査問会に所属する人間達に抗議をし始めたのである。
「セシリヤ・ウォートリーをすぐに解放しろ!」
「高潔なるテオバルド・ウォートリーの血族を解放し、謝罪せよ!」
「ストラノに脅されたアンリエット・ウォートリーに咎はない! 彼女もまた高潔なウォートリー家の一員だ!」
「テオバルドと同じく、高潔であるセシリヤ・ウォートリーに自由を!」
多くの人間や獣人、更にエルフまで、種族問わずに上がる抗議の声にさすがの査問会も怯んだ。
これらの抗議は連日連夜行われ、参加する人数も日を重ねるごとに増えて行き、査問会の人間も徐々に疲弊して行く事となった。
更に査問会を揺るがす事になったのは、テオバルドとアンリエットの当時を知る、とある大貴族からの証言である。
彼はテオバルドの親友であり、アンリエットの人柄もその最期も良く知っていると主張。
当時、ストラノがアンリエットを脅して"禁忌魔術"を作らせたが、生まれたばかりの子を守る為に仕方なく従った事、そして、罪の意識に耐えきれず夫であるテオバルドに報告した事。
テオバルドに報告した結果、ストラノ王を止めようとしたテオバルドは反逆の罪を着せられ、ウォートリー一族はストラノ王の手によって滅亡し、アンリエットも同時に死亡した為、それ以上魔術を作る事は出来なくなったと証言した。
それを皮切りに、当時ストラノに虐げられていた所をテオバルドとアンリエットに救われたと言う獣人の証言が、いくつも上がり始めたのである。
そして、セシリヤ自身に救われたという元騎士の妻も、沢山の抗議の署名を集めて査問会へ提出した。
署名の中には、多くの現役騎士の名前や引退した元騎士の名前、更にはその伴侶や家族の名前もあったという。
ロガール騎士団や今代の勇者からも、当然抗議の声は上がった。
中でも魔術団はアンリエットの偉大さに敬意を払っており、例えアンリエットの作った魔術が"禁忌"だとしても、誰も成し得なかった偉業に変わりはないと強く主張した。
更に、それらを否定すると言うのなら自分達の作った魔具などには何の価値もないと、今後魔具を一切提供しないと表明したのである。
現存する魔具もすべて回収するという魔術団の抗議は、他国も揺るがす事態となった。
他国にも輸出されている優秀な魔具が使えなくなっては、今後の生活に多大な影響が出てしまう為だ。
それを危惧した各国の王族や貴族たちも、すぐに査問会に抗議を始めた。
決定打になったのは、査問会の上層部と思われる男とロガール騎士団内の一部の騎士の間にあった不正取引である。
彼らは、騎士団の内部機密である情報を密かに売買していたのだ。
元騎士で今は馬丁をしているある男が張り込んでその現場を目撃し、証拠と共に世間に暴露した事で情勢は一気に傾いた。
結果、針のむしろとなった査問会は強制解体となり、数々の証言や抗議のお陰でセシリヤ・ウォートリーは晴れて彼らから解放される事になったのである。
解放され民衆の前に姿を現した彼女は、胸を張って彼らに感謝の意を伝えると、深々とお辞儀をして見せた。
テオバルド夫妻を知る人物達は、セシリヤ・ウォートリーの姿を目にすると、皆口を揃えて言った。
アンリエット・ウォートリーの生き写しとも言えるあの麗しい姿に、テオバルド・ウォートリーを思わせる堂々たる佇まいと高潔さを併せ持つ彼女は、間違いなく二人の血族である、と。
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