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【完結】異世界追想譚 - 万華鏡 -  作者: 姫嶋ヤシコ
第二部

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ありがとう…… -Ceciliya- Ⅳ【転機】⑤


 *




 セシリヤが目覚めてから二週間経った頃、ユウキが病室を訊ねて来た。

 異世界に帰る為には王の身体の回復を待たなくてはならず、暫くこちらの世界に留まっているのだという。(しかし、元の世界に帰るかどうかはまだ検討中とのことだった)

 勇者としての役目は果たしたが、空いた時間を使って城下に訪れては人々に声をかけて回り、彼らを元気づけているそうだ。


「僕にはそれくらいしか出来る事がなくて……。でも、ものすごくありがたがってくれるので、何だか申し訳ない気がします」

「ユウキ様が声をかけて下さるだけで、彼らにとっては本当にありがたい事なんですよ。だって、国を救って下さった勇者様なんですから」

「そうだと、いいんですけど……」


 自信がなさそうに笑うユウキは、この部屋に訪れてからどことなく上の空だった。

 本当は何か他に言いたい事があるのではないかと思ったセシリヤは、ユウキにそれとなく話を振って見る。


「起きてからまだ会っていない方もいるんですが……、皆さん、お変わりないですか?」

「……あ……。いや……、えっと……」


 やはりあの後、騎士団の中でも色々とあったのだろう。

 何をどう話せばと困っているユウキに、セシリヤはあえてハルマの事を訊ねて見た。

 セシリヤに訊ねられたユウキは案の定、身をこわばらせた後、俯いて両手を握っている。

 きっと、今日はハルマの事を伝えに来てくれたのだろう。


「……セシリヤさんが眠っている間に、晴馬さんは"レオン・ノエル"として騎士を引退しました。その後は、王が用意してくれた隠し部屋でしばらく静かに過ごしていたんです。でも、ある日から少しずつ身体を動かせなくなって行って……。それで……、もう、身体を維持する事はできないから……、ここで、ね……、眠らせて、欲しいって……っ」


 ぎゅっと握られたユウキの両手が白くなっている。

 ハルマを眠らせてくれたのはユウキなのだと理解したセシリヤは、彼の両手を優しく握って真っ直ぐに目を合わせた。


「ユウキ様……。ハルマを眠らせてくれて、ありがとうございます。ハルマがあなたにそう望んだのですから、きっと彼も安らかに眠る事が出来たはずです」


 セシリヤの言葉に、ユウキの瞳から涙が零れ落ちた。


「ご、ごめ……なさい、セシリヤさん……、僕……が、晴馬さんを……っ……」


 きっと今日まで、持たなくても良い罪悪感をずっと抱えていたのだろう。

 言葉を詰まらせながら謝罪するユウキの涙を拭い、セシリヤは安心させるように微笑んだ。

 思っていたよりも、セシリヤはこの現実をしっかりと受け止めていた。


「謝らないで下さい。それに、いつか誰かがやらなければならない事だったんです……」


 だから泣かないで下さいと付け足せば、ユウキは小さく頷き乱暴に袖で目を擦って涙を堪えた。


「ユウキ様の口から彼の最期を伝えに来て下さって、ありがとうございます」

「いいえ……。少しでも、セシリヤさんの……、お二人の役に立てたのなら良かったです」


 少しだけぎこちない笑顔を見せたユウキに安心した所で扉がノックされ、返事をすればマルグレットが病室に入って来る。

 ユウキの姿に気が付いた彼女は丁寧に一礼し、セシリヤの顔をちらりと見た後口を開いた。


「ユウキ様、いらしていたのですね。これからセシリヤの診察をしたいので……、少し、外していただいてもよろしいでしょうか?」

「あ、いいえ! 僕はもう、これで失礼します!」


 邪魔をしてはいけないと思ったのか、気を遣ったユウキはそそくさと退室して行ってしまった。

 去り際に、また来ても良いかどうかを訊ねて。(勿論、頷いた)

 ユウキの姿が見えなくなった所で、マルグレットが手際よく診察を始める。


 ……第七騎士団にいた頃は、いつもこうしてマルグレットに診てもらっていたっけ……。


 懐かしいと、マルグレットの手つきをぼんやり眺めていれば、不意に名前を呼ばれて顔を上げた。


「思った以上に早く回復しているみたい。この分なら、予定より早く復帰出来そうよ」

「……ありがとうございます、マルグレット団長。治療して下さった方々のお陰です」


 服を直しながらそう言うと、マルグレットは少し複雑そうな顔をしてセシリヤを見つめていた。

 何かおかしなことを言っただろうかと考えても、思い当たるフシはない。

 マルグレットの事を団長と呼ぶのはいつもの事であるし、お礼を言うのもごく当たり前の事だ。

 セシリヤが思い切ってどうしたのかと訊ねて見ると、深く溜息を吐いたマルグレットは一枚の書類を差し出して見せた。

 目を通せば上から順に、第一騎士団、第五騎士団、第六騎士団と記載されており、右側の欄にある可否にマルをつけてサインをするようになっている。


「あなたの実力と功績を知った方々から、打診が来ているの……」

「また、剣を握れと……?」


 マルグレットに問うと、彼女は視線を床に落としながら首を縦に振った。


「でもね……、それだけが理由じゃないの」

「どういう事?」


 マルグレットの表情が硬いものに変わった事で、セシリヤはあまり良くない方向で物事が動いているのだと推察する。

 そしてその物事の当事者である事を悟ったセシリヤは、言いづらそうにしているマルグレットに教えて欲しいと願い出た。


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