いつか叶うと信じて -Dino-Ⅶ【不屈】⑧ ※挿絵有
ディーノが無事復帰した後も、セシリヤは目覚めなかった。
騎士団の編成もまだ決定しておらず、人員が減った状態での勤務は以前にも増してキツイものだったが、それでも、ディーノは時間が空けばセシリヤの元へ足しげく通っていた。
その日起こった事や新しく気づいた何気ない事などを取り留めもなく話しながら、少し痩せた彼女の手を握って反応が返って来ることを期待する日々。
時折、見舞いに来ていたプリシラと一緒にセシリヤに話かけることもあったが、やはり彼女から反応が返って来ることは無かった。
いつまでディーノがセシリヤを見舞い続けられるのかと面白がって見ていた者も、賭けをしていた者も、今ではそんな失礼な態度を取る事は無くなっている。
それ程までに、ディーノは献身的だった。
午前の仕事を終えて執務室を出たディーノは、今日も日課となっている病室へ向かう。
その途中でアルマンに会い、似合わない花を持っていることを不思議に思っていれば強引にそれを押し付けられた。
「気が向いて持って来たんスけど……、俺が持って行くのもなんだし、先輩、持ってってくださいよ」
どうやらセシリヤへの見舞いの品のようだが、誰かに揶揄われでもしたのか持って行く事を躊躇していたのだろう。(指摘すればきっと怒るので言わないけれど)
相変わらず子供のような奴だなと、思わず笑ってしまいそうになるのを堪えてアルマンに礼を言えば、彼はそそくさと背を向けて行ってしまった。
一緒に病室まで行けばいいのにとも思ったが、アルマンなりの気遣いと受け取って、ディーノは医療棟内に入る。
忙しそうに働いている医療団員と軽く挨拶を交わし、いつものようにセシリヤのいる病室へ向かった。
扉の前で一度立ち止まったディーノは、いつもここでセシリヤが目覚めてくれる事を願って扉を開けるのだ。
まだその願いは叶っていないが、いつか叶うと信じて今日もそっと扉を押し開ける。
「セシリヤさん。今日は、珍しくアルマンの奴が花を……、」
そう言いかけたディーノは目の前の光景に目を見開き、そして持っていた花を床に落としてしまった。
両腕で上半身をなんとか支えて起き上がっているセシリヤの姿に、思わずディーノは駆け寄りその身体を支える。
落とした花のことなど、気にしていられなかった。
「セシリヤさんっ……!」
彼女の顔を見れば、その瞳からぽろぽろと涙が流れている。
悲しい夢でも見ていたのだろうか。
どこか痛い所でもあるのだろうか。
聞きたい事は山ほどあったが、そのどれも問う事は出来ないまま、ディーノはセシリヤをそっと抱き締めた。
「おかえりなさい……、セシリヤさん……」
ようやく発した言葉は至ってシンプルで、けれど、どんな言葉よりも彼女に相応しいものだった。
【END】




