いつか叶うと信じて -Dino-Ⅶ【不屈】⑥
痛むこめかみを押さえながら溜息をひとつ吐いた所で、再び来客を知らせる音が聞こえて返事をすれば、今度はアルマンとアンジェロが病室へ入って来た。
あの日以来初めて会うアンジェロだったが、髪を切ったのかずいぶんとスッキリしたような気がする。
そんなディーノの視線に気が付いたのか、アンジェロはマティの魔術を防ぎ切れなかった時に髪が焦げてしまい切ったのだと説明してくれた。
負った怪我はあの時セシリヤが処置してくれたお陰ですぐに良くなったと付け足したアンジェロは、ベッド脇に置いてある長椅子に腰かける。
アルマンもそれに続くように椅子に座り、それからディーノに身体の調子はどうかと訊ねて来た。
「まだ痛みが残ってはいるが、前ほどでもなくなって来ている。このまま順調に行けば、二週間後には復帰できるだろうって」
「よかったっスね。……あのまま死んでたら、先輩の勇気も台無しになってただろうし」
「確かに……! あんな大勢がいる中でのプロポーズなんて、並大抵の覚悟じゃできませんからね……」
「プロポ……?」
「"俺の明るい未来には、貴方が必要なんだ!" でしたっけ? ……いや、マジ熱いッスね先輩!」
「おい、ちょっと待て……! 何でお前らがそこまで知ってんだ!」
噂になっている事は知っていたが、どうしてこの二人が詳細まで (しかも一字一句違わず)知っているのか。
よくよく話を聞けば、駆けつけたアルマンがちょうどその時に気が付いたアンジェロを介抱していたようで、ばっちりディーノの言葉を離れた場所から聞いていたという。
まさか後輩にまで聞かれているとは思わず、ディーノは更に頭を抱えて唸ってしまう。
「でも、あれは感動しました。まさか他人のプロポーズの瞬間を見れるなんて! 僕もいつかする事があれば、参考にさせてもらいたいと思います」
「あの命がけのプロポーズは、ずっと語り継がれるんだろうな……。あの話を聞いた女騎士たちのはしゃぎ様はすごいっスからね。もしかしたら、流行ったりするかもしれねぇっスよ?」
「……お前ら、復帰したら覚えとけよ!」
ニヤニヤしながら話している二人にそう言うと、アンジェロは仕事がまだ残っているからと早々に病室を出て行った。
現在、第二騎士団は団長であるシルヴィオが行方不明になっており、一番業務に支障が出ているのだ。
最後にシルヴィオを見たイヴォンネの証言から、彼が向かったと思われる<封印の地>へ騎士を派遣したが、そこには夥しい量の血痕だけが残されていただけだったと報告があったようだ。
遺体は見つかっていない為に行方不明扱いになっているが、シルヴィオは一体何処へ姿を消してしまったのだろうか。(彼の事だから、突然ひょっこりと戻って来そうな気もするが……)
「……アンジェロも、相変わらず苦労するな」
「昔からそういう役回りになる奴なんで……」
他人事のように呟いたアルマンは、一度深い溜息を吐き出すとディーノの顔を真っすぐ見つめて口を開いた。
「……先輩。あいつ……、いや……、セシリヤ、さんの事なんスけど……」
「……」
「まだ、意識は戻らねぇみたいで……」
「……そうか」




