役目を果たさなければならない。 -Yuki-Ⅳ 【決戦】⑫
「あ、あのっ……、もし、これがあの黒い霧で出来ている剣なら、僕の魔術で消すことが出来るかも知れません……!」
優希のその一声で晴馬が顔を上げる。
けれど、魔術を発動する為にはリアンの力が必要不可欠だ。
優希が気を失っているリアンを抱えて声をかけると、小さな鳴き声が聞こえて来る。
幸いな事にリアンの身体には、怪我や異常はないようだ。
ほっと息を吐いてすぐに術式を描いた優希は、リアンの口元に頬をくっつける。
しかし、描いた術式は僅かに輝くだけで発動しない。
「な、何で……?」
どうして魔術が発動しないんだという優希の言葉は、傍にいた王によって遮られた。
「あの戦いでリアンの中にある魔力が尽きているのだろう……。回復するには時間が必要だ」
「で、でもっ……、それを待っていたら、セシリヤさんが……っ!」
その先は絶対に口に出したくないと、優希はくちびるをきつく噛み締める。
あの魔術を使うには膨大な魔力が必要だ。
けれど、今ここにいる人物ではそれを補うことが出来ないことは明白だった。
転移魔具は使えない為、アルマンが医療団員かイヴォンネを連れて来ると言って走り出し、晴馬はセシリヤの意識を繋ぎ止める為に懸命に話しかけている。
そんな中、優希には何も出来ることがないのだ。
……リアンがいないと何の役にも立てないなんて……!
リアンを抱き締めながら、優希は零れ落ちそうな涙を必死に堪えてセシリヤを見る。
今にも呼吸が止まってしまいそうなセシリヤは、それでも気丈に優希へ笑って見せた。
「ユウ……キ、様……、大丈夫で、す。わ、私は、っ……」
大丈夫ですから、と呟いた後に目を閉じたセシリヤは、それ以降晴馬の声にも反応を示さなくなってしまった。
辛うじて胸が浅く上下しているが、これ以上時間を置いては確実に助からなくなってしまう。
「セシリヤさんっ……! 大丈夫なんて言わないで下さい! 僕はまだセシリヤさんに何も返せていないのにっ……!」
優希の瞳から零れ落ちた涙がセシリヤの頬に当たって滑り落ちて行く。
しかし、小説や漫画のようにそれが彼女の命を救ってくれる事はなかった。
「……魔力が……、魔力があれば、良いのか……?」
不意に背後から聞こえて来た低い声に優希が振り返れば、いつの間にかそこに立っていた人物が再び同じ問いかけをする。
例え魔力があったとしても、セシリヤを助けられるとは断言できない。
けれど、
「魔力があれば……、僕が、絶対にセシリヤさんを助けますっ……!」
一縷の望みに全てを賭け、優希はハッキリとそう答えたのだった。
【END】




