役目を果たさなければならない。 -Yuki-Ⅳ 【決戦】⑪
「……お……、終わった……んですよね……? 今度こそ……」
優希がおずおずと声を上げれば、セシリヤが静かに頷いた。
それと同時にアルマンが深い溜息を吐き出し、晴馬も王も安堵の表情を浮かべる。
マティの契約していた"邪神"が誰かの手によって消滅したという、なんとも呆気ない幕切れだったが、これでこの世界を脅威に晒す存在は完全に消滅し、文字通り平和が返って来るのだ。
思っていた以上に役に立たなかった事を悔いはしたが、いつの間にか傍にやって来て手を差し出してくれているアルマンの顔を見たら、そんな事も気にならなくなった。
その手を取って立ち上がれば、腹の傷が急激にズキズキと痛み出す。
きっと、心の底から安堵したせいだろう。
痛みを我慢しながら視線を動かせば、晴馬がセシリヤを助け起こそうと手をのばしているのが見えた。
落ち着いたら、セシリヤには短い時間しか残されていない晴馬と精いっぱいお互いの話しをして欲しいと思う。
……良かったですね、セシリヤさん。
優希が見守る中、セシリヤが晴馬の手に触れた。
まさにその瞬間、
「セシリヤ……!」
「セシリヤさんっ!」
セシリヤの背中に黒い霧で出来た剣が突き刺さったのだ。
晴馬は倒れる寸前のセシリヤを抱き止め、優希は咄嗟に空を見上げる。
徐々に消えかけている文様の中心から、黒い霧が吐き出されたような痕跡があった。
剣はあそこから落ちて来たに違いない。
一体誰が、などと問わずとも答えはわかり切っている。
マティが倒れる直前に最後の罠を仕掛けていたのだ。
―――セシリヤの死。
それは王が、晴馬が……、そして優希が一番苦しむだろう事を考えた上での最後の手段だった。
「ハ……ル、マ……」
「セシリヤ……、待ってろ! 今すぐに、何とかしてやるから……」
晴馬がセシリヤに刺さっている剣に手をのばすが、それは触れられることを拒絶するかのように彼の手を強く弾く。
優希も晴馬に続いて剣に触れて見たが、結果は同じだった。
いつの間にか傍まで来ていた王も同じように試して見たが、何も変わらない。
"異世界人"である事が関係しているのかも知れないと、アルマンが剣に触れようと試みるが、やはり同様に弾かれてしまった。
そうしている間にも、セシリヤの呼吸は浅く短くなって行く。
破れた服の隙間から見える肌からは禍々しい呪いの印が消え去っていて、もうセシリヤが不老不死ではない事を物語っていた。
あまりにもタイミングが悪い。
更に深い絶望へと突き落とされながらも、優希はこの状況を何とか出来る方法がないかと頭を悩ませ、それからもう一度空を見上げる。
そこにあった文様も黒い霧も消え去っていて、雲の隙間から晴れ間が僅かに顔を覗かせていた。
……セシリヤさんに刺さった剣があの黒い霧から作り出された物なら、僕の使える魔術が効くんじゃ……!




