役目を果たさなければならない。 -Yuki-Ⅳ 【決戦】⑨
「リアン、大丈夫……!?」
慌ててリアンを抱き上げれば、微かに鳴いた後、薄く開いていた両目を閉じてしまった。
小さな身体で頑張ってくれたリアンをこれ以上働かせる訳には行かない。
けれど、リアンがいないと魔術は使えない。
どうすればと必死に頭を動かすが、何一つ良い案は浮かばなかった。
床に落ちている剣を必死に手繰り寄せるが、これを使ってマティと戦う事も到底無理な話だ。
そうこうしている内に、マティに向かってどこからか魔術が放たれた。
魔術を放ったのは、王を守るように立っているセシリヤだ。
炎の矢がマティに掠るが、それも大したダメージにはなっていない。
マティがセシリヤに気を取られた瞬間を狙い、優希は力を振り絞って立ち上がるとマティに向けて剣を突き出した。
両手は震えていたが、必死に力を入れ突き出した剣に体重をかければ、皮膚と肉を突き破る感覚が伝わってくる。
人間を刺したその感覚に怯えながらマティの顔を見上げれば、彼は酷く冷たい目をしたまま優希を見下ろしていた。
「どこを狙っても一緒だ。俺は死なない。俺は、"神様"に選ばれた人間なんだ!」
剣が身体に深く突き刺さっているにも関わらず、平然とそう言ってのけるマティはもう、人間ではない。
そう実感した優希の喉から空気が詰まったような音がした。
いや、実際詰まっているのだ。
マティが軽々と優希の首を片手で持ち上げているのだから。
「あっ……ぅぐっ……」
「ユウキ様っ……!」
セシリヤが王の傍を離れマティに剣を向けたが、優希を盾にするように彼女の目の前に突き出した。
「お前が剣を振ればこいつが傷つくぞ」
「……卑劣な真似を……!」
「復讐に卑劣も何もある訳ないだろう!」
マティがセシリヤに向かって剣を振り、セシリヤがそれを受け止める。
その衝撃で優希の首が更に締められるが、限界直前でいたずらに力を緩めているのか意識を失う事は無かった。
「セ……、シ……さ、んっ……」
「ユウキ様っ……!」
避けても反撃してもどちらにしても優希への負担は変わらない。
それならばいっその事マティに反撃してくれた方が良いと口にしたくても、首を絞められた状態では満足に言葉を発する事が出来ない。
その間にも、マティは反撃しようにも出来ないセシリヤへ攻撃を続ける。
優希を気遣いながら、マティの攻撃を避けるしか出来ないセシリヤの身体には細かな傷が増えて行くばかりだ。
セシリヤに向かって甚振るかのような攻撃を仕掛けるマティに、優希は嫌悪感しかなかった。
「無様だな、セシリヤ・ウォートリー! こんなガキ、見捨ててしまえば良いものを!」
マティが振った剣を避けようとしたセシリヤだったが、瓦礫に足を取られたのか僅かにバランスを崩してしまう。
何とか片足を踏み出して転倒を防いだようだが、直後に突き出されたマティの剣は避けきれず彼女の左胸辺りを貫いた。(まだ甚振るつもりなのか、マティがわざと急所を外したように見える)
一瞬の間を空けて喀血したセシリヤだったが、すぐに刺さった剣を左手で握って固定すると右手に持っていた剣をマティの心臓の辺りに突き刺す。
しかし、マティの言う通り"邪神"の力が働いているのか、彼にとっては何の支障もないようだった。




