役目を果たさなければならない。 -Yuki-Ⅳ 【決戦】⑦
「誰かと思えば、野蛮で脳なしの団長か。とっとと逃げれば良かったのに、のこのことここへ戻って来るなんて……。すっかり飼い慣らされたようだな!」
「俺の質問に答えろマティ! お前が戦うべき相手は、ここにいる魔物だろうが!」
レナードはもう一体の魔物を斬り捨てると、また一歩マティに近づいて問いかける。
「なあ、マティ……! これは全部……、何かの間違いなんだろう?」
マティはレナードを冷めたような目で見た後、彼に向かって剣を突き出した。
「何も間違ってはいない。俺が戦うべき相手は、この国とあの男だ! 騎士団も、あんたも……、何もかもが俺の敵だ!」
マティの返答に、レナードは信じられないと目を大きく見開き、そして更に問いかける。
「マティ! お前っ……、騎士団に入ったのは、お前と同じ境遇になる子供を一人でもなくす為じゃなかったのかよ! 俺達傭兵団の明日を心配して、一緒に騎士団に志願する事を勧めてくれたんじゃねぇのかよ!?」
「ここに来るまであんたを存分に利用させてもらったが……、あれだけ近くにいたのに騙されている事にも全く気付かないなんて、本当に間抜けだな」
まるで別人のようになってしまったマティの言葉を、レナードは受け入れられないままその場に立ちつくした。
「騎士団に志願することを勧めはしたが、お前たちの明日を心配した事は一度もない! 俺が常に心配していたのは、この国と王を滅ぼす為の計画が崩れる事だけだ!」
そして更に追い打ちをかけるようなマティの発言は、レナードの瞳を涙で滲ませて行った。
「村で独りぼっちになったお前を連れて行った俺達を、"家族"のように慕ってくれていたのは、全部嘘だったってぇのかよ!」
「……楽しかったか……? "家族ごっこ"は!」
そう言い放ったマティはレナードに向かって攻撃を仕掛ける。
激しく刃がぶつかり合った剣は、僅かに火花を散らした。
マティがレナードに気を取られているその隙に、優希は負った傷の痛みを堪えながらアルマンの元へ近づく。
途中、何度もリアンが不安そうに小さく鳴き声を上げていたが、大丈夫だよと必死に笑顔を浮かべて見せた。
アルマンの元に辿り着いた優希は、彼が刺された腹部の傷を確認する。
素人目だが幸い急所をうまく外れているのか、出血も思ったより少なく致命傷にまでは至っていないようだ。
……これなら僕の治療魔術で何とかなりそうだ……!
すぐに治療魔術を施し始めるが、魔物がそれを見逃すはずもなく、優希に向かって攻撃を仕掛けて来る。
けれど、その攻撃は優希の後ろに立った人物によって防がれた。
「晴馬さん……」
「気にせず治療を続けてくれ。一人でも戦力は多い方が良い」
「……はいっ!」
アルマンを治療している間も魔物は次々と湧き、一向に数が減る様子はない。
この立ち込めている黒い霧を全て消さない限り、いつまで経っても状況は変わらず消耗して行くだけだ。
晴馬に背中を守られながらアルマンを治療する優希の焦りは募って行くばかりで、しかしだからと言って良い解決方法も思い浮かばない。
それからやや暫くすると、マティと戦っていたレナードが倒れてしまった。




