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【完結】異世界追想譚 - 万華鏡 -  作者: 姫嶋ヤシコ
第二部

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役目を果たさなければならない。 -Yuki-Ⅳ 【決戦】⑥

 ——―一瞬の出来事だった。

 術式を描き終えた直後、微かな空気の流れに違和感を覚えた優希が咄嗟にリアンの口元に自分の頬をくっつける。

 同時に発動した魔術は、優希に当たるギリギリの所で剣を弾き返した。

 即座に相手から距離を取った優希は、その人物の顔を見て愕然とする。


「剣は使いこなせなくても、勘だけは良いようだな」


 違和感の正体は、"マティの存在を忘れていた"事だった。

 そう長い時間ではなかったが、確実に優希の記憶からマティの存在が消えていたのだ。


 文字通り、綺麗さっぱりと。(何か魔術を使われたのかも知れない)


 更に驚いたのは、晴馬に首を斬り落とされたはずのマティが何事も無かったかのように平然と剣を持って立っている事だった。


「な……、何で、生きて……」

「レオンの身体の中にいる異世界人の話を聞いていなかったのか? 契約を交わした"邪神"……いや、"神様"が消滅しない限り、俺が死ぬことはないんだよ! お前たちが何人束になってかかって来ようと、誰も俺を倒す事は出来ない! はじめから勝敗は決まっていたも同然だ!」


 うっすら斬られた跡の残る首を指差しながら、心底愉快そうに笑い声を上げたマティは、再び優希に狙いを定めて剣を振り上げる。

 振り下ろされた剣を躱しつつ、出来るだけ王からマティを遠ざけるように誘導すれば、アルマンが優希の前に立ちはだかりマティの剣を受け止めた。


「アルマンさんっ……!」

「おい、こいつは俺が引き受けるから早く応援を呼べ! この黒い霧、お前の魔術なら消せるんだろっ?」


 アルマンの言葉に周囲を見渡せば、先程魔術で消し去ったはずの霧が再び立ち込めている事に気が付いた。

 それと同時に魔物が次々と作り出されて行く。

 王の方へ視線を寄越せば、魔物から王を守り応戦しているセシリヤと晴馬の姿が見えた。


「ユウキ様っ……、後ろに魔物が……!」


 こちらの様子に気が付いたセシリヤの声で後ろを振り返った優希は、襲い掛かって来る魔物の鋭い爪を躱す。

 しかし、完全には避けきれずに爪の先が肩を掠ったのか、そこから血が溢れ出した。

 痛みに眉を顰めながらも素早く術式を描いた優希は、リアンにキスをしてもらい魔術を発動し、魔物と周辺の黒い霧を消し去る。

 けれど、思った以上に黒い霧の再生が早く、転移魔具を使用できる状態にまでは至らない。

 何度か同じ魔術を発動してみても状況は変わらず、そうこうしている内に、再び魔物が一体二体と優希の前に姿を現した。

 すかさず剣を手に取り構えたが、現れた魔物は優希より数倍も大きく、見ただけで身体が震え上がってしまう。

 震える身体を叱咤し何とか魔物からの一撃は弾き返したものの、すぐに攻撃態勢を整えられず容易く追撃を許してしまった。

 右肩から左の脇腹にかけて容赦なく入ったその一撃は、優希の戦意を喪失させるには十分過ぎるほど強烈なものだった。

 床に転がるように倒れた優希の脇腹は裂け、今まで見た事がない程の勢いで血が流れ出している。

 革製の軽装備など、魔物にとってはあって無いようなものだ。

 懐にあった転移魔具も、今の魔物の攻撃で破損してしまった。

 リアンが心配そうに優希に駆け寄り耳元で鳴くが、生まれて初めて感じる強烈な痛みにその場から動く事が出来ない。

 いっその事意識を手放した方が楽だったのではと思うくらいの激痛に悶えていれば、魔物が更に優希に向かって攻撃を仕掛けて来る。

 アルマンを見やればマティを抑えるのが精いっぱいで、最早万事休すだ。

 今にも振り下ろされようとしている魔物の鋭い爪が、妖しく光る。

 無駄な抵抗とわかっているが辛うじて剣を握ると、優希は低い視線のまま次の魔物の攻撃に備えた。

 しかし、攻撃による衝撃はいつまで経っても来ず、どうしたのかと魔物を見上げれば、次の瞬間には魔物は黒い霧になって消えて行った。


「おい……、これは一体どういう事なんだ、マティ……!」


 空気に溶けて行く黒い霧の中から姿を現したのは、第七騎士団長であるレナードだ。

 レナードは複雑な表情を浮かべながら、アルマンと剣を交えているマティに叫ぶ。


「マティ! 何でアルマンと戦ってるんだ! お前が戦うべき相手はここにいる魔物じゃねぇのか!?」


 レナードの姿をちらりと見たマティはほんの一瞬だけ目を見開き、けれど、すぐに何事もなかったかのようにアルマンの剣を弾き飛ばして彼の腹部を突き刺した。


「アルマンさんっ……!」


 鎧の隙間を確実に狙った一撃はアルマンに絶大なダメージを与えたようで、マティが剣を引き抜いたと同時にその場に倒れ込んでしまった。

 優希のかすり傷 (それよりもやや深いが)でさえ悶絶する程痛いのに、腹部を貫かれたとあらば立っていられないのも理解できる。

 そのまま立ち上がる事もないアルマンを一瞥したマティは、彼の身体を蹴って除けるとレナードに視線を定めた。


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