役目を果たさなければならない。 -Yuki-Ⅳ 【決戦】⑤
……この人は、本当にセシリヤさんを大切にしていたんだ。
それが男女の愛であるのか、兄妹のような親子のような愛であるのかは判別出来なかったが、そこにある純粋な想いは見ているだけでも良く伝わって来た。
晴馬のセシリヤへ向ける優しい眼差しや慈しむような仕草のひとつひとつが、その証拠だ。
「さっきも言った通り、"邪神"はもうこの世から消える寸前だ。だから、セシリヤにかけられた"邪神"の呪いも時期に解けるはずだ。誰にも命を奪われる事がないように生きて欲しいと願いはしたが、まさか"不老不死"の呪いをかけるなんて……。本当に残酷な事をしたと思っている。そのせいで、辛い目に遭わせてしまっただろう。本当に、悪かった」
「私も……、あの時、酷い事を言ってごめんなさいっ……! それから、ハルマを誤解してたこともっ……! 嫌われてしまったと……、憎まれていると、ずっと思ってたから……!」
「良いんだ、セシリヤ。あんな状況だったら、そう思われても仕方がない。これ以上の謝罪は不要だ」
零れ落ちる涙を拭う事も忘れ、何度も謝罪するセシリヤを優しく抱き締める晴馬の姿は、きっとこの先も忘れる事はないだろう。
じっとその姿を見つめて目に焼き付けていた優希だったが、不意に肩に乗っていたリアンが威嚇するように声を上げた。
リアンの威嚇の声に、セシリヤも晴馬も顔を上げて辺りを警戒する。
離れた場所で騎士達の様子を見ていたアルマンも、同じように周囲を見回していた。
……何だろう、このしっくりと来ない感じは。
突然拭えない違和感に襲われた優希が眉を顰めると、他も同様に何かがおかしいと警戒を強めている。
ロガールを襲う脅威は去った。
そして晴馬とセシリヤが無事再会し、長年のすれ違いを解消する事が出来た。
後はこの国を復興させる為に、傷ついた国民や騎士達を救済するだけだ。
それなのに、"何か"がそこからぽっかりと抜け落ちているような気がしてならない。
リアンの警戒する鳴き声が強くなって行くに連れて、優希の不安も強くなって行く。
転移魔具を使いロガールに来た所から起きた出来事を順番に思い起こそうとする優希だったが、どう言う訳か途中から記憶が曖昧になっていた。
広間の入り口で魔物と戦うセシリヤを見てすぐに参戦し、黒い霧を消し去り、それから王の元へ彼女が駆けだした。
それから……、
……どうしてあの時、セシリヤさんは王の名前を叫んだんだろう?
王に危険が迫っていた記憶はあるが、それが何だったのか思い出せない。
ふと、座り込んでいる王の周辺へ視線を寄越したが、特に異常な点は見当たらず、優希は首を傾げてしまった。
威嚇を続けるリアンの尻尾が、優希に警戒を怠るなと訴えるかのように背中を強く叩く。
リアンに同意するように小さな身体を一撫でした優希は、異変があった時すぐに発動できるようこっそりと防御魔術の術式を描き出した。
この世界にやって来てから何度も戦闘を経験した優希は、戦いが終わった後でも常に警戒は怠ってはいけない事を学んだからだ。(一瞬の油断は命取りだと、耳にタコが出来るほどアルマンに言われ続けたおかげである)
そしてこの直後、優希の判断は間違っていなかったと身を持って知る事になるのだった。




