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【完結】異世界追想譚 - 万華鏡 -  作者: 姫嶋ヤシコ
第二部

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役目を果たさなければならない。 -Yuki-Ⅳ 【決戦】④

 事の発端はストラノに召喚され彼の意思に背いた事だが、よくよく話を聞けば幼少期の"レオン"を助けた事から始まったようだ。

 熱を出したセシリヤの為に薬を買いに行った先でレオンが兵士達に暴行を受けており、それを助けた晴馬は彼に"高潔な魂を繋げるお(まじな)い"をかけられ、そこから魂を共有することになってしまったと言う。

 それからレオンと別れた晴馬は、ストラノからの追手に命を奪われたのだ。

 死の直前、セシリヤを護ってやれなくなることを後悔し、彼女が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を強く願った所、どこからともなく願いを叶えようという声が聞こえ、差し伸べられるままに手を取った。

 そこから"晴馬"としての記憶は曖昧になっていたそうだ。(恐らく、レオンと魂を共有していたせいだろうと晴馬は言っている)

 晴馬の身体に残された魂の残骸は”邪神”に浸食されて事実上身体を乗っ取られる事となり、そのせいで純粋な願いも歪んでしまったまま動かされる事になったのかも知れない。

 晴馬の"高潔な魂"がレオンの身体の中に根付いていたことが幸だったが、気づいた時には晴馬の記憶もレオンの記憶も一切消えていたと言う。

 しかし、"レオン・ノエル"と言う名前だけは憶えていた為、その時から晴馬は自分を"レオン・ノエル"だと思い込んで生きていたようだ。


 つまるところ、晴馬は"レオン"として長い間セシリヤの傍にいた訳である。


 灯台下暗しとはこういうことを指すのだろうかと、優希は脱力とも安堵ともとれない溜息を吐き出すと、


「それじゃあ、晴馬……さんは、これからレオンさんの身体で生きて行くって事になるんですか?」


 そう純粋に訊ねた。


 今、晴馬はレオンの身体に魂が根付いている状態で、何の問題もなく活動出来ている。

 期待を抱いてしまうのは当然の事だった。

 優希の質問に僅かな間を開けた晴馬は、それから眉根を寄せて困ったように笑って見せる。


「ハルマ……?」


 セシリヤがそんな晴馬の顔を不安そうに見上げると、彼は参ったと言わんばかりの溜息を吐き出し、口を開いた。


「見ての通り、俺自身の身体はとうの昔に死んでいる」


 晴馬が指差した方向には白骨化した頭が一つ転がっており、近くには身体が崩れ落ちていた。


「俺が契約をしたのは、レオン曰く"元神様であった邪神"だ。詳しい理由はわからないが、信仰していた信者達を失い、神様ではなく"邪神"に堕ちたそうだ。レオンとその信者達は神に対しての失われた"信仰心"を取り戻す為に巡礼を続けていた。その数少ない信仰心が"邪神"をこの世に繋ぎ止めていたんだと思う」


 だが……、と言った晴馬はチラリと頭蓋骨を見やり、一度目を伏せた後再び視線を優希に向けて言葉を続ける。


「俺が自分の名前を取り戻したせいで最後の信者だったレオンの魂が完全に消失した今、"邪神"はこの世に留まる理由を無くしてしまった」


 その一言で、優希は全てを悟った。

 そして、それはセシリヤも王も同じだった。


「レオンの身体は、俺の魂が根付いた時点で死んでいた。"レオンの魂"は、俺がレオンの名前を憶えていたからこそギリギリの所で繋ぎ止められていた。勿論、"邪神"への信仰心も。だから、"邪神"の力で今まで活動する事が出来たんだ。そのレオンの魂が消え、邪神が消滅したら……」

「その身体は……、いつ崩れても、おかしくないって言う事ですか?」

「その通りだ。レオンの身体は死んだ時から歳を重ねていない。邪神の力がなければ、保つことは出来ないだろう」


 淡々と告げられる事実は、あまりにも重い。

 けれど、いつ本当の意味での"死"を迎えるのかわからない不安定な状態であるにも関わらず、晴馬はそれを既に受け入れたかのように穏やかだった。


「何をしようとも……、貴方の魂を繋ぎ止めることは不可能なのか……?」


 王が震える声で問えば、晴馬は首を縦に振って見せ、


「"邪神"と契約した以上、運命を共にする事は決まっていた。これは誰のせいでもなく、俺自身が決めた事だ」


 穏やかに微笑んだその先には、セシリヤがいた。

 本当に、後悔の欠片もない清々しい微笑みに、優希は釘付けになる。

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