役目を果たさなければならない。 -Yuki-Ⅳ 【決戦】②
「クッソ……、これじゃあ埒が明かねぇっ!」
「アルマン副団長……! 我々が魔物の気を引いている内に勇者様を連れて謁見の広間へ向かって下さい!」
苛立つアルマンに数名の騎士達が声をかける。
斬っても再生するのなら気を引きつけて道を開け、先へ進ませる方が良いと判断したのだろう。
騎士達の顔を見た優希とアルマンが同時に頷くと、彼らは魔物の群れに向かって行く。
それを見届けたアルマンが足を踏み出すと、やや遅れて優希も足を踏み出した。
「後ろは振り返るなよ! あいつらがお前を信じて先に行かせてくれたって事を忘れるんじゃねぇぞ!」
「はいっ」
この世界は常に命がけだ。
いつ魔物に襲われるか、いつ賊に襲われるかもわからない。
それらと戦って勝てるのかもわからない。
そんな世界で命をかけて道を開けてくれた彼らを振り返れば、彼らの信頼を裏切る事になるのだ。
世界が違えば価値観も違う。
受け入れる事は容易ではなかったが、優希は堪えるように拳を握り締め前を向いて走り続けた。
幸いな事に、行く手を阻む魔物もおらず順調に謁見の広間へと近づいて行く。
多少の息切れを感じながらも懸命に足を動かしていれば、謁見の広間の入り口付近に人が倒れているのが見えた。
「アンジェロ……!」
アルマンが叫ぶが、意識がないのか反応がない。(怪我は粗方治療されているようだ)
それからすぐに謁見の広間へ視線を寄越すと、優希はその異様な光景に目を見開いた。
黒い霧の立ち込める広間には沢山の魔物が溢れ、更に複数の騎士達が剣を振るっている。
しかし、騎士達が剣を振るっている相手は魔物ではなく、
「セシリヤさんっ!」
剣で魔物を斬り捨て鞘で騎士達を気絶させているセシリヤに向かって走れば、彼女は王が危ないと叫んだ。
すぐにアルマンがセシリヤに加勢し、先に騎士達を気絶させて行く。
優希は建国祭の時に描いた術式を思い出しながら描き終えると、リアンの名前を呼んで頬にキスをしてもらい魔術を発動させた。
白い輝きが一瞬にして魔物と黒い霧を散らすと、どういう訳かマティが王に向かって剣を振り上げている所だった。
……マティさんが、どうしてっ……!
状況が飲み込めずに一瞬立ち止まってしまった優希だったが、すぐにマティを止めるべく術式を描く。
それと同時にセシリヤが王に向かって駆け出した。
次いで騎士達を気絶させ終わったアルマンが走り出すも、そこから王のいる場所までは距離がありすぎる。
周囲を見渡しても、他に動ける人間はいそうもなかった。
……このままじゃ、間に合わない!
焦る優希だったが、手の打ちようがない。
そうこうしている内にマティの剣が振り下ろされ、ゆっくりと顔を上げた王が何かを諦めたように、けれど、どこか安堵したような微笑みを浮かべてセシリヤに視線を向けているのが見えた。
「いやあああああああっ……、フシャオイィィィィッ!」
セシリヤの悲痛な叫び声が響いた瞬間、全てがスローモーションのように流れて行く。
王の首を狙ってゆっくりと振り下ろされて行く剣。
届かないとわかっていても、懸命に王に向かって走るセシリヤ。
更にその後ろを追うアルマン。
凶刃が、最期とばかりに鈍い輝きを放った。
……もう、ダメだ……!
そう思った直後、セシリヤを追抜いた影が、マティの首を斬り落とした。




