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【完結】異世界追想譚 - 万華鏡 -  作者: 姫嶋ヤシコ
第二部

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全ての元凶 -???-【因縁】⑩

「こんな事をして、無事でいられると思っているのですか?」

「つまらない質問をするんだな。本当の事を知る人間は、誰一人として俺が逃がさず処分する。……あくまでもこの国は"魔王"によって落とされるんだ。"魔王"に負けた"勇者"の話は瞬く間に世界へ広がるだろう。そこで"魔王"と"勇者"についての事実を暴露すれば、フシャオイの権威は完全に失墜する! 死して尚、その悪評が語り継がれるんだ! あいつがストラノにした事と同じようにな!」

「そこまでして王を貶めたい気持ちが私にはわかりませんが……、あなたのしようとしている事が間違っている事だけは理解しました。"魔王"と"勇者"の事実がどうであれ、今この国で懸命に生きている人たちを苦しめる貴方を許す事はできません。私は王に忠誠を誓った騎士の一人です。マティ・ヒュランデル……、この場で、貴方に制裁を下します!」

「……結局、こうなる運命なんだな」


 セシリヤの瞳に滲んでいた怒りの感情が明らかな敵意に変わる瞬間を見たマティは、身体に流れる血に刻まれた運命に抗う事はできない事を悟り、僅かに抱いていた希望の欠片を完全に捨て去った。



 ……ストラノとテオバルドのようになりたくは無かったが、セシリヤがそれを望むと言うのなら仕方ない。



 マティが指を鳴らすと、黒い霧が一瞬にして多くの魔物の形になりセシリヤを取り囲む。

 更にもう一度指を鳴らせば、倒れていた騎士たちが剣を握り立ち上がった。

 けれど騎士たちの目に光は無く、ただ虚空を見つめているだけだ。


「……これは……、彼らに、何をしたのですか?」


 その異様な光景にセシリヤが戸惑いを見せた。

 騎士たちの手の平には、空に描かれた文様と同じ物が浮かんでいる。

 "恐怖心を無くす(まじな)い"と言う名目で密かにマティが流行らせ、信じた多くの騎士たちがそれを利用した結果、こうして彼らを容易く操る事が可能になったのだ。

 これもアンリエットが作り出した"精神に干渉する魔術"を改変したものであり、彼女がどれだけ優秀な魔術師であったのかが窺える。


「気に入ったか、セシリヤ・ウォートリー! これも、お前の血縁である魔術師が作り出した魔術を改変したものだ!」

「……」

「アンリエット・ウォートリー。……罪深い程に優秀な魔術師だよ……」


 吐き捨てるようなマティの台詞と共に、操られている騎士たちの剣先がセシリヤに向けられた。


「排除しろ」


 マティの一声で、騎士たちが一斉にセシリヤに向かって行く。

 同時に取り囲んでいた魔物も動き出した。

 同胞と多くの魔物が一斉にかかれば、セシリヤにはどうする事も出来ないだろう。

 セシリヤならば同胞を斬る事に戸惑うはずだ。

 更に魔物までいるとなれば下手に身動きが取れなくなる。

 事が終わった頃には、彼女の肉片も残りはしないだろう。

 遺体を見る事は叶わないのが残念だと背を向けたマティは、今度こそフシャオイを標的に一歩一歩、確実に近づいて行った。

 背後からは剣のぶつかり合う音や魔物の悲鳴が絶え間なく聞こえて来るが、マティにはそれが復讐を完遂する歓声に聞こえていた。



 ……ついに、この手でフシャオイを殺す日が来た!



 倒れているマルグレットを背後に庇いながら、じっとこちらを見ているフシャオイの顔を目に焼き付けるように見つめる。

 怯える訳でもなく、ただこちらを見ているフシャオイは今何を考えているのか、ふと、マティは聞いて見たくなった。

 特別フシャオイに興味があった訳ではないが、最期を目前にして何を思っているのか聞いてみたくなったのだ。


「フシャオイ……、情けをかけるつもりはないが、お前の最期の言葉を聞いてやる」


 剣先をフシャオイに突き付けながらマティが言えば、フシャオイは一度目を伏せた後にマティを見上げて口を開く。


「ストラノの血縁を見逃すべきではなかった……」

「……」

「あの時、すぐに保護すべきだった……。そうすれば、お前にこんな事をさせずに済んだのに……! すべて、選択を誤った私の罪だ」

「てっきり口汚く罵倒されるとばかり思ったのに、残念だな……」


 この期に及んで綺麗ごとを並べ立てるフシャオイに失望したマティは、突きつけていた剣を振り上げる。

 これで最期だと言うのに、フシャオイは穏やかに微笑んでいた。

 その視線は、マティの後ろに向けられている。

 フシャオイが寵愛していると言うセシリヤへの、精いっぱいの強がりなのだろう。



 背後からフシャオイの名を呼ぶ悲痛な叫び声が響いたと同時に、マティの剣がフシャオイの首目がけて振り下ろされた。



 けれど、剣はマティの思っていた所とは全く別の方向へ逸れて行き、更に視界が不自然に傾いて行く。

 何が起こったのかと考えた直後、マティの首は冷たい床へと転がり落ち、遅れて胴体が倒れた。

 低くなった視線を懸命に動かし、ようやく瞳に映った人物を見たマティは、ただただ絶句するばかりだった。


【END】

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― 新着の感想 ―
[良い点] 影の薄かったマティがここまでの強敵とは…そしてただのふられ男と思ってたディーノが魔王の襲撃で一気に中心人物になるとは…きっと彼も草葉の陰で満足していることでしょう。
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