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【完結】異世界追想譚 - 万華鏡 -  作者: 姫嶋ヤシコ
第二部

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全ての元凶 -???-【因縁】⑥

*

*

*


 ―――― ストラノ王には腹違いの弟が存在していた。


 テオバルド・ウォートリー。


 歴史の闇に葬られたテオバルドの存在は、当時の獣人達にとって唯一の救いであり、後にストラノ王国を滅亡させる彼らの動機の一つにもなった人物だ。

 テオバルドはストラノと違い、美しく穏やかで聡明な人物であった。

 ストラノが王位を継ぎ獣人達への差別をより一層激しくし始めると、テオバルドは差別によって奴隷に落とされた獣人達を自らの領地に保護していたと言う。

 王国内では、何故王位を継いだのがストラノであったのかと言う声が出て来る程、テオバルドは高潔だった。

 常日頃からテオバルドを妬んでいたストラノは、どうにかしてテオバルドを失脚させられないかと考えていた。

 そしてある時、ストラノは人間の"精神に干渉する魔術"を始め、"魔物や人間の遺体を操る魔術”、その他人道を外れた多くの魔術の開発を魔術師たちに命令したのだ。


 その魔術師達の中に、テオバルドの妻であるアンリエットがいる事を知っていての命令だった。


 国王であるストラノの命令に背けばウォートリー家が潰される事を理解していたアンリエットは、生まれたばかりの娘を守る為にも渋々従い開発に協力した。

 しかし、その使用目的が近隣諸国を侵略し隷属させる為だと知ったアンリエットは、この事実を夫であるテオバルドに訴えた。

 テオバルドはすぐにストラノにそれらの魔術の使用を禁止するよう進言したが、これを謀反とし、テオバルドをその日の内に処刑したのだった。

 ウォートリー一族も根絶やしにしたストラノは、アンリエットによって唯一開発に成功した"精神に干渉する魔術"を使い、更に国の力を強めて暴虐の限りを尽くしたのである。――――





 傭兵団に保護され、紆余曲折を経て青年に成長したマティが騎士団に入団した数ヶ月後。

 母親の遺した手帳に記されている内容をじっくり読み返し終えると、マティは深い溜息を吐き出した。

 先祖であるストラノが忌み嫌っていたと言うテオバルドの悲劇は、何度読み返しても同情せざるを得ないものだ。

 ウォートリー家の人間もストラノに強要されたとは言え、今は禁忌とされている魔術の開発に協力すると言う罪を犯していた。

(結局、それを止めたテオバルドは処刑され、一族も消されてしまったが)


 もしもテオバルドの血を引く子孫がいたのなら、その人も同じように謂れのない罪を背負って生きていたのだろうか。

 自分と同じように身に覚えのない先祖の罪を背負わされ、理不尽な世界を呪いながら生きていたのだろうか。


 ストラノはテオバルドを酷く忌み嫌っていたようだが、だからと言ってマティには彼ら一族を忌み嫌う理由にはならなかった。

 自分と似たような境遇になり得たかもしれない子孫を思うと、どうしても同情してしまう。


 どこかでテオバルドの子孫が生きていたなら、共に手を取り合って歪んだこの世界を生き抜く事が出来たのだろうか。

 お互いの境遇を理解し合い、ストラノとテオバルドのような殺伐とした関係ではなく、歩み寄る事が出来たのだろうか。


 そんな事を考えた後、あり得ない絵空事だとマティは頭を振って否定した。

 ウォートリー一族は根絶やしにされたと記載されている以上、子孫など存在する訳がないと……、この時のマティはそう思っていた。

 それからいくつか季節が過ぎた頃、マティはウォートリー家の血を引く子孫と思しき人物を見つけたのだ。



 セシリヤ・ウォートリー。



 いくら時代が変わったとは言え、そのファミリーネームを好んで名乗るなど、あの一族しかないとマティは確信する。

 どうやって血族が生き延びたのかはわからないが、マティにもまだ遠い親族がいたと言う事実が少しだけ嬉しくもあった。

 彼女もきっと自分と同じように辛い人生を歩んでいたに違いないと、そう思いながら美しいその横顔をじっと眺めていた。


 けれど、セシリヤの置かれていた境遇はマティとは似ても似つかないものだった。


 セシリヤの周りには絶えず誰かが寄り添い、彼女を支えていた。

 多少セシリヤについての悪い噂は流れていたし、敵意を持つ者もいたが、それらからも彼女は守られていた。

 マティと母親が求めていたものを、セシリヤは何の苦労も無く手にして生きていたのだ。

 更に、王の寵愛まで受けていると言う。

 それを知った瞬間、マティの中から彼女と共に歩もうと言う選択肢は抹消された。


 まったく正反対の境遇に置かれているセシリヤが、マティの目にはただただ妬ましく映っていた。

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