表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】異世界追想譚 - 万華鏡 -  作者: 姫嶋ヤシコ
第二部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

243/290

全ての元凶 -???-【因縁】①

 少年は、幼い頃から人目を忍ぶようにして生活する事を強いられていた。

 周囲の人間はいつも少年と少年の母親に対して冷たく、時には罵倒され石を投げられる事もあった。

 何故周囲の人間に蔑まれるのか、少年には理由がわからなかった。


「絶対に、目立つような事をしてはダメよ。私達は息を殺すように、ひっそりとて生きなければならないの」


 いつも母親から言い聞かされた言葉の意味も今一つわからなかったが、そうする事で母親との生活が守られるのならと、素直に従っていた。

 ある時、村人たちから手酷く追い出された少年と母親は、新たに暮らす場所を求めて旅をしなければならなくなった。

 幸い母親には魔術の才能があった為に、母子(おやこ)二人で旅をするには困らなかった。

 旅の途中で出会った人を魔術で助けながら細々と食いつなぎ、時には飢えた事もあったが、誰も二人を罵倒する事も石を投げる事も無い穏やかな日々だった。

 それからようやく静かな村に落ち着いた少年と母親だったが、暫くするとそこでも周囲の人間からの扱いは他と同じになって行った。

 母親は今までの無理がたたったせいで体調を崩してしまい、その村から出る事は叶わず、少年と一緒にひっそりと陰に隠れるようにして生活するしかなかった。


 ……どうして僕たちがこんな扱いを受けなくちゃならないんだろう。


 母親の看病をしながらいつも小さな窓から空を見上げていた少年は、まるで罪人のような生活だと思っていた。

 時折、外から聞こえて来る村の子供たちの楽しそうな声を聞きながら、自由な彼らを羨む事もあった。

 何の刺激もない、退屈な毎日。

 そんなある日、少年を不憫に思った母親は、先祖が持ち出し大切にして来たと言う一冊の魔術の本を与えてくれたのだ。


「魔術は正しい事をする為に使うものだから、未熟なあなたはまだ、使ってはダメよ。私達は目立たず、息を殺すようにして生きなければならないの……。だから、絶対に使わないと約束してね?」


 母親が大切にしていたと言うその本は娯楽とは程遠いものであったが、少年は喜び母親の言葉に二つ返事で頷いた。

 一般的な火や水を使う魔術、風や大地の力を借りる魔術、治癒の魔術から始まり、人間の精神に干渉する魔術、それから未完成ではあったが生物や魔物の死骸を操る魔術など、見た事のない術式が書かれた魔術の本は、少年の興味を惹くには十分だった。

 何度も何度も、飽きる程読み返した魔術の本の内容を全て暗記すると、少年は母親との約束を破ってこっそりと魔術を練習するようになった。

 この本にある魔術を使って誰かを助ける事が出来れば、きっと村の人も喜んで自分達を受け入れてくれるに違いないと、ただただ純粋な心から出た行動だった。

 しかしある時、少年が魔術の練習をしている事を知った母親は、それについて激高した。


「魔術を使ってはダメだと言ったはずでしょう!? 目立つような事はしないでちょうだい!」


 純粋な気持ちを踏み躙られたような気持ちになった少年は、何故自分が蔑まれ人目を忍んで生活しなければならいのかと強い口調で母親に訊ねた。

 母親は少年の初めての反抗に驚きながらも、初めて少年に先祖の話をし始めた。



 ――― ストラノ王国。



 これが少年の先祖の治めていた国の名前だ。

 獣人を差別し、暴虐の限りを尽くした醜い王が支配していたこの国の名前を知らない者はいない。

 今でも多くの書物にその悪行が書き連ねられているからだ。

 ストラノ王国は、異世界から来た勇者と共に立ち上がった獣人達に反旗を翻され滅亡したのだが、その際、逃げ延びる事の出来たごく僅かな血族がいたのだ。

 彼らはストラノ王の暴虐を止められなかった事を悔い反省し、その日からすべての罪を背負い人目を忍びながら細々と生きて来たと言う。


 母親はその一族の末裔であったのだ。


 少年は、自分にその醜い王の血が流れている事を母親から聞かされ、絶望した。

 その血が少しでも身体を流れている限り、先祖の罪を背負いながら生きて行く事が唯一の償いなのだと言う母親の言葉は、何も知らなかった少年にとってはあまりにも酷だった。


 ……そんなの、おかしいじゃないか。


 少年や母親が犯した訳でもない罪を、その血が流れているからと言う理由だけで背負い生きて行くことが償いだなどと言うのは納得出来ない。

 少年は母親に反発したが、母親はただ黙って首を横に振るだけだった。

 少年は、理不尽な怒りを胸の内に燻らせながら、ただこの現状を受け入れているだけの母親を避けるようになった。

 母親を嫌いになった訳ではなく、ただ、胸を燻らせているこの感情をどうして良いかわからなかった故の行動だった。

 しかし、唯一の"心の拠り所(我が子)"から拒絶されたと思った母親は、偶然村に立ち寄ったと言う怪しげな教団へ縋り、次第に彼らの教えに傾倒して行ったのだった。


 それから月日が流れたある日の晩、眠りについていた少年は母親に揺り起こされ、寝ぼけ眼で外へ連れ出された。

 月のない夜。

 不気味な程静まり返った村の中心の広場に連れられた少年は、そこで信じられない光景を見た。

 血で描かれた見た事のない文様の中心に山積みになっている遺体。

 すべて、この村の住人だった。

 一体これは何なのだと少年が問えば、母親は光のない目で少年を見つめて微笑んだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ