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【完結】異世界追想譚 - 万華鏡 -  作者: 姫嶋ヤシコ
第一部

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ホントに君、何者なの? -Silvio- 【嘘】②


「ホントにごめんね、アンジェロ!」


 両手を合わせながら頭を下げ、先日、書庫にある結界へ借りていたペンを投げ入れてしまった事を謝罪するシルヴィオは、吐き出された溜息に恐る恐る顔を上げた。

 目の前には、淡々と執務をこなし、最後の書類に目を通してサインした副団長のアンジェロがおり、彼は片付けた書類の山にその一枚を置くと、


「……いえ、もういいです。こう言う人だって解ってて貸した自分が悪いので、気にしないで下さい」


 冷たい視線と棘のある台詞をシルヴィオへ投げ、当てつけのように新しいペンを取り出して見せた。

 流石準備が良いことでと感心していると、お前も早く仕事をしろと言わんばかりに書類の束を持たされ、地味な仕事は得意じゃないと呟けば、まだまだたくさんありますからねと飛び切りの笑顔で後ろの机に乱雑に積まれた書類の山を指差され、がっくりと項垂れる。

 第二騎士団の仕事は、近隣諸国や魔物の発生場所の偵察任務が多く、各騎士団や一般市民からの情報、時には王からの命を受け部隊を派遣している。

 任務が終わると多数の部隊から報告書が提出され、団長・副団長はそれに目を通しながら整理し、各騎士団への仕事の分配をしたり、更に重要な事実が発覚すれば王への報告や各団の団長を集めて会議を開くなど多岐に渡り、勿論、偵察最中に魔物や賊と戦闘になる事もある為に日々の鍛錬も欠かせず、第七騎士団に引けを取らない程に忙しい。(決して他の団が暇だと言う訳ではない)

 最近は魔王の封印が弱まっているせいか、魔物の活動が以前にも増して活発になっていて、部隊の派遣も多く報告書の整理が膨大で、この執務室へ籠る日々が続いている。

 団長に就任する以前はシルヴィオ自身も偵察部隊として動いていて、正直に言えばそちらの仕事の方が気楽だったような気がする。


 そもそも、団長に昇格したのもシルヴィオが望んだ事ではなかった。


 ただ、召喚された三代目勇者がまだ年若い普通の女の子で、彼女が安心して魔王を封印する為の旅が出来るようにと、王が彼女自身へ共に旅をする仲間の選択権を与えた事が切っ掛けで、見事そのお眼鏡にかなってしまったからだ。

 道中、ある意味で色々な困難にぶち当たったのだけれど(ここではあえて語らないが)、無事に魔王を封印することに成功し、情報収集力、的確な判断、そして観察力が勇者への多大なサポートとなった事を認められ、あれよあれよと言う間にこの地位へ上り詰めていた。

 お陰で、こうして毎日退屈な執務が増えている訳だ。

 単調作業はむしろアンジェロの方が向いているのに、と黙々と書類を処理して行く彼の姿を眺めながら自分の机につき、一番上にある書類に手を伸ばす。


 第三騎士団監視区域に出没する新種と思しき魔物についての報告。

 第四騎士団監視区域で新たに魔物の巣窟が確認できたと言う報告。

 第五騎士団監視区域で瘴気によって汚染された地域があると言う報告。

 第七騎士団……、賃金値上げ交渉……。


「って、いやこれ関係ないよね!」


 開始早々、誰が紛れ込ませたのか全く関係ない書類に声を上げると、いつの間にか目の前にアンジェロが一枚の書類を持って立っている事に気が付き、どうしたのかと訊ねると、


「これ、医療団からです。以前、うちの小隊が偵察で負傷して帰って来たじゃないですか。その内の数名について、精神に干渉する魔術に近い痕跡があったらしいんです」

「それって、禁忌魔術の一つだよね。今じゃ使える人なんて存在しないはずだけど…。後で詳細を確認しておくよ」


 その昔……、とは言っても、初代勇者が召喚される前の話になるのだが、この世界のすべてを手に入れようとした強欲な王の君臨するストラノ王国が、お抱えの魔術師達を使って作らせた魔術だと聞いたことがある。

 ストラノ王国はその魔術を使い多数の種族達を屈服・隷属させ、果ては近隣諸国までもを支配しようと企んでいたとも言われている。

 結局のところ、初代勇者が魔王を封印した後、ストラノ王国に反旗を翻した多くの種族達が攻め入り、国諸共魔術師達も滅亡してしまい、ロガールを建国する際、初代勇者は術式の記載されている文献を回収・処分し、禁忌魔術の一つとして永劫使用することを禁じたのである。


 故に、現状ではその魔術を使える者は誰一人いないはずなのだ。


 とは言え、確かに受け取った書類にはそう記載されていて、作成者はどうやらその騎士の治療を担当したらしいマルグレットだ。

 真面目な彼女の記載であるならば、冗談ではなさそうだ。

 もしも本当にその魔術が使われたとしたのなら、いつでも冷静に物事を対処できるように訓練しているはずの第二騎士団の部隊が危機に陥った事に納得も出来る。


 それにしても、よくマルグレットは禁忌魔術の事を知っていたなと感心する。

 術式こそ今は失われてどんなものであったかは不明であるが、その痕跡を見つけられたとなると医療団も侮れない。

 今度、ゆっくりお茶でもしながら彼女に話を聞いてみようと、受け取った書類を王への報告として仕分けた所でふと、その手が止まった。


 ……どうして魔物がそんな禁忌魔術を使えるのだろう?


 マルグレットが禁忌魔術を知っていたことに感心して流してしまう所だったが、よくよく考えると部隊を襲ったのは魔物で、今まで本能で襲って来るばかりの相手が突然そんな知能を持ち合わせ、ましてや葬り去られた禁忌魔術など使って来るものなのだろうか?

 魔王の封印の力が弱まっているから、と言う理由では些か説得力に欠ける気がする。

 仮に何らかの理由で突然変異をしたとしても、どうやってその禁忌魔術を知り得ると言うのか。

 いくら知能があったとしても、魔物自らがその術式を作り出すとは考えにくく、何やら裏で手引きしている人物がいるのではと疑いたくなってしまう。

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