もしもその時が来たら -Ángel-Ⅱ【驚愕】③
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『……こちら、遠征軍のジョエル・リトラです。遠征軍は昨日、無事<封印の地>に到着しました。現在、本隊とは別に偵察部隊を組み魔王の様子を確認しています。直に偵察部隊から連絡が入るでしょう』
「そうか、いよいよか……」
玉座に鎮座しジョエルからの定期報告を聞いている王の顔色は、午前中に見た時よりもやや良くなっていた。
何かあった時にはすぐに対応できる様、マルグレットも傍に控えている。
遠征軍の様子は音声でしか伝わらないが (映像までは映し出されないのが残念である)、今の所特に問題はなさそうだ。
『偵察部隊から連絡が入るまでの間、物資の補給作業に入りたいと思います』
ジョエルの言葉に王が了承の返事をした直後、突然転移魔具の動作が不安定になり、音声が途切れ途切れになってしまった。
僅かに謁見の広間が騒めき、いち早くマティと数人の騎士が転移魔具に近づくと、どこかに不具合がないかどうかを確認し始める。
『……っ! の……が、……と……、た!』
その間も転移魔具から聞こえて来る声は途切れ途切れで、けれど、どこかその声は緊迫しているようだ。
魔具自体には異常がないことを確認したマティも、流石に様子がおかしいと魔術団のロータルを連れて来る事を進言し、王に了承を得たアンヘルはすぐに連絡を入れようと持っていた転移魔具に魔力を注ぎ起動させる。
しかし、魔具は一切の反応を見せなかった。
おかしいと思い、もう一度同じ動作を繰り返すがピクリとも反応がない。
広間の中央にある転移魔具にも不具合が起こり、アンヘルの持っている魔具にも不具合が起こっている。
果たしてこれを偶然と捉えて良いものかと、そう考えていた時だ。
広間の中央にある転移魔具の傍にいたマティが、すぐ近くに控えていた騎士を突き飛ばした。
一体何事だと周囲が静まり返った瞬間、大きな爆発音と共に転移魔具のあった場所が一瞬にして瓦礫の山に埋もれたのだ。
「マティ副団長!!」
マティに突き飛ばされたお陰で助かった騎士がすぐさま瓦礫をどかそうと動き、それにつられて次々に騎士達が集まって来る。
……一体、何が起こったのか。
瓦礫の下敷きになったマティを救出しようとしている騎士達を後目に、アンヘルは状況を再確認しようと崩れ落ちた壁、そして天井を見上げた。
一部むき出しになっている金属が内側に向かって折れている事から、明らかに外部から力がかかって壊れていることが窺える。
城の構造自体に問題があって崩れた訳ではないと物語る天井。
大きな穴が開いたそこからは、曇天がじっとこちらを覗き見ていた。
更によく目を凝らして見れば、"何か"がこちらに向かって落ちて来ているのが確認できる。
アンヘルと同じように天井を注視していた騎士達も、落ちて来る物体に気が付いたのか、それぞれがすぐに行動を始めた。
天井や壁の崩落で負傷し動けなくなった騎士を連れて逃げる者、落下して来る物体を迎え撃とうと剣を構える者、また、その衝撃に備えて結界を張る者。
アンヘルも王の元へ戻りすぐさま結界を張り終えると、近づいて来る物体に向かって警戒を続けた。
「来るぞっ!」
レオンの声で、その場にいた者全員に緊張が走る。
その直後、複数の騎士達が張った結界はいとも容易く落下して来た物体に破壊され、物体自体は瓦礫の上に直撃したようだ。
一面が砂埃と黒い霧に覆われ、視界が一瞬にして奪われる。
それでもアンヘルは瞬きをする事もなく、瓦礫の上に直撃した物体のある方を見つめ続けた。
砂埃は徐々に落ち着き、次第に視界が開けて来る。
それから間もなく、薄くなった砂埃の中から禍々しい雰囲気を放つ者の姿が見え、玉座の方へゆっくりと近づいて来るその正体に気づいたアンヘルは思わず固まってしまった。
まさかそんなはずはないと、何度も頭では否定するものの、今、現実にそれは起きているのだ。




