実に単純で愚かである -Yuri-Ⅶ【愚行】④※やや残酷描写有の為苦手な方はご注意ください
状況が飲み込めないユーリの手の上には、粉々に砕け散った石の破片が乗っている。
そして、注いだユーリの魔力はまだ身体から流出し続けているようだ。
時期にそれも止まるだろうと前向きに捉えたユーリは再び走り出し、ようやく見慣れた廊下に辿り着いた頃には体力も尽きかけて、その場でへたり込んでしまった。
辺りを見れば、騎士達が慌ただしく駆け回っている。
「お前たちは爆発のあった謁見の広間へ向かえ!」
「城に魔物が出るなんてどう言う事だ!」
「城下にも魔物が出たらしい……! 第七騎士団が応戦してるようだが、援軍が必要だろう」
「ダメです、転移魔具が反応しません!」
「おい、あっちの廊下にも魔物だ!」
「ついさっき書庫の方でも爆発が起きて火災になっています! 数人の騎士を消火作業に向かわせます」
「書庫の炎がサクラの木に燃え移って広がっている! 早く向かえ!」
騎士達が口にした言葉に嫌な予感がしたユーリは、冷や汗をかきながらその場からコソコソと逃げ出すように移動をし始めた。
……書庫の爆発って、もしかして僕のせいじゃ……。
謁見の広間の爆発はわからないが、書庫での爆発はシルヴィオから受け取った魔石に魔力を注いだ直後に起こっている。
こんなにタイミング良く爆発が起こるなど、どうしても偶然とは思えなかった。
(それに、今も現在進行形で身体から魔力が流出していて止まる気配がないのは何故なのか)
何故そんな仕掛けをしたのかは、シルヴィオ本人ではないから分からない。
しかし、貴重な書物が保管されている書庫を爆破してしまった原因は、魔力を注ぎ込んだユーリであると言う事実は変わらない。
……あ、これ、終わった。
事が収束した暁には、斬首刑が言い渡されるだろう。
近い未来に起こり得る最悪の事態に震えながら、ユーリはセシリヤの剣を抱き締めた。
(無意識に彼女に助けを求めていたのかも知れない)
人目を避けながら移動していると不意に目の前を眩い閃光が走り、ユーリは驚いて仰け反り尻を強打する。
一体何なんだと閃光の走った方向を見れば、その場所だけえぐり取られたかのように綺麗になくなっていた。
もしも反射的に避けていなければ死んでいたかも知れないと言う現実に身震いしたユーリは立ち上がろうともがくが、体力の消耗と先程から止まらない魔力の流出のせいで疲弊してしまった身体は一向に言う事を聞かない。
そうこうしている内に、閃光を放ったと思われる魔物がその姿を現した。
建国祭の時に目にした魔物よりも大きくて禍々しく、辛うじて人の形を保っているが明らかに人ではない醜悪な魔物。
ニタリと歪んだ口元からは歯が所々抜け落ちており、その間には人のものか獣のものか判別がつかない肉片や毛が絡まり挟まっている。
人を食べたのかも知れないと、どうでも良い事を考えてしまう程にユーリの気は動転していた。
ゆっくりとした動作で確実に間合いをつめる魔物の口から、臭気が漂って来る。
絶体絶命。
叫んで命乞いをする事も助けを呼ぶ事も出来ないまま、ユーリは目をきつく閉じてだただたその時を待った。




