実に単純で愚かである -Yuri-Ⅶ【愚行】②
勇者達が旅立ってから四ヶ月と少し。
思っていた以上に平穏な日々が続いていた。
相変わらず怪我などで医療団に訪れる騎士はいたものの、以前に比べればまだ平和な方だ。
(プリシラの事があった時は大忙しだったが、それも誰かが手を回してくれたおかげなのか、今ではすっかり落ち着いていた)
今日はプリシラも魔術団で過ごすことになっており、ユーリやセシリヤが彼女の面倒を見ながら作業をする必要もなく仕事は順調だった。
担当していた怪我人の治療内容を記し終えたユーリは、凝り固まった身体をほぐすようにその場で伸びをし、それからふと部屋の片隅に置かれている剣に視線を定めると、引き寄せられるように立ち上がってフラフラと歩いて行く。
……これ、セシリヤさんの剣だよな。
勇者が旅立ってから各団員へ帯剣命令が出ているにも関わらず、セシリヤは相変わらず剣をこの部屋に置いたままだった。
何となくその剣を手にすると、ずっしりとした重量がユーリの腕にかかる。
少なくともそこら辺の医療団員が扱える重さの物ではないと、剣に関してはからっきしのユーリにさえも理解できた。
……こんな剣を扱うだなんて、セシリヤさんって、本当に何者なんだろう。
いつかアンヘルにセシリヤについて調べて見ろと言われたことを思い出したユーリは、ここ暫くはそんな事をしている余裕もなかったとしみじみ思う。
結局、未だにセシリヤについては何もわからないままだ。
とは言え、当初ほどセシリヤのことを調べようと言う気にはなれなかった。
例え彼女が何者であろうと、ユーリにとっては良い先輩であることに変わりはないからだ。
医療団に入団してからセシリヤに助けられた事は数えきれない程あったし、彼女が先輩でなければ今頃医療団にはいなかったかも知れない。
色々な事があったけれど、彼女の下について仕事を出来た事は幸運だったと思う。
使い込まれた柄や鞘を眺め、それから思い立ったように剣を持って部屋を出ると、ユーリは席を外しているセシリヤを探し始めた。
平和な日々が続いているとは言え、いつどこで何が起こるかわからない状況で帯剣をしていないのは致命的だ。
例え使う事はなくても帯剣しているだけで安心感はあるはずだと、重たい剣を何度も抱え直した。
しばらくセシリヤの立ち寄りそうな場所を見て回っていると、向い側の廊下に大量の武器や食糧を運んでいる騎士達の姿が見えた。
……そう言えば、今日は定期報告と物資の運搬があったっけ。
団長であるマルグレットも謁見の広間に行っている事を思い出したユーリは、何となくセシリヤもそこにいるのではないかと進行方向を変える。
もしもそこにセシリヤがいなかったとしても、他を当たれば良い話だ。
謁見の広間はここからかなり離れているがそう急ぐ事でもないだろうと、ユーリの足取りはのんびりとしたものだった。
更に、普段通らない廊下を選択しながらセシリヤの姿を探したのが運の尽きになるとは、この時、思いもしなかったのである。




