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【完結】異世界追想譚 - 万華鏡 -  作者: 姫嶋ヤシコ
第二部

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瞳に浮かぶ涙は、もう悲しいものではなかった。 -Angelo-Ⅱ【清算】②

 勇者達が旅立ってから四ヶ月と少しが経った。

 シルヴィオがいない分、余計なトラブルが起きないせいか、アンジェロは業務に集中して取り組めている。

 元々書類整理は得意であった為、つい先程まで山のようになっていた書類はあっと言う間に片付き、今は手持無沙汰になってしまった。

 何気なく視線を動かせばシルヴィオの使っていた机が目に入り、アンジェロは小さな溜息を吐く。


 本来ならば、今頃はアンジェロが遠征に行っていたはずだった。


 シルヴィオからどうしてもやってもらいたい事があると言われて渋々城に残ったが、その作業も勇者達が旅立った後すぐに終わってしまった。

 この執務室の隅にもこっそり設置したそれを、アンジェロは一瞥する。


 ……まあ、確かにアレは命がけだったろうな。


 シルヴィオに頼まれてアンジェロが設置した()()()

 出発前日にそれを渡されたアンジェロは、驚きに叫ばずにはいられなかった。


 シルヴィオから渡されたものは、イヴォンネの元からくすねたと言う転移魔具だったからだ。


 あのイヴォンネの厳重な管理を潜り抜け、どうやって手に入れたのかと問いただしたが、シルヴィオは笑って誤魔化すばかりだった。

(普通の人間には到底出来ない芸当である)

 釈然としないアンジェロだったが、シルヴィオに答える気はないと悟ると、とりあえずはそれを言われた通り城下町と城にこっそりと設置した。

 それからもう一つ、ずっと以前にシルヴィオに言われていた騎士団内部の人間の動向の観察も続けていてが、こちらも依然として特に怪しい動きはなく、シルヴィオの考え過ぎだったのではと思い始めている所である。

 少々平和過ぎる日常に疑問を感じなくも無いが、何事もないのが一番だ。

 それよりも、シルヴィオが遠征先で女性を口説きまくったり、他の人に迷惑をかけていたり、無茶をしていないかが心配だった。


 ……いやいや、流石にあの人でもそれは無いか。きっと、多分……、うん……。


 脳裏に浮かんだシルヴィオの軽薄な笑顔を追い払い、それからふと思い立ったアンジェロは机の引き出しを開けると、中に保管してあった髪飾りを取り出して眺めた。


 かねてから、セシリヤに返そうと思っていた髪飾り。

 親友(アレス)が遺した物だ。


 仕事が忙し過ぎて中々返す機会が巡って来なかったが、手の空いている今ならば彼女に返しに行けるのではないかと考えたアンジェロは、髪飾りを綺麗なハンカチに包んでポケットに入れるとすぐに執務室を出た。

 部屋を出ると湿気の含んだ風が頬を撫で、足を止めて空を見上げれば、今にも雨が降り出しそうな曇天だ。

 出来れば (気持ち的に)快晴の日に渡したかったが、今日を逃せばまたいつ渡しに行けるかわからないと思い直して足を踏み出した。


 ……セシリヤさんに、アレスの事も話そう。


 アレスがどんな思いで騎士を目指していたのか、彼女の事をどんなに大切に思っていたかを伝え、二人の間にあった誤解とわだかまりを無くさなければならない。

 それから、アレスの存在をなかった事にした真相を教えてもらいたかった。


 怒っている訳でも恨んでいる訳でもなく、ただ、純粋に知りたかった。


 セシリヤは、何の理由もなく一人の存在をなかった事にするような人ではないとアンジェロは思う。

 アレスを見れば、彼女の人となりもおのずと窺い知れるからだ。

 強く優しく純粋で、真っ直ぐに生きていた彼は、きっとセシリヤに強く影響を受けて育ったに違いない。

 そんなアレスのセシリヤを想う気持ちは、他人のアンジェロにでさえもよく伝わっていた。


 ……それなのに、どうしてもっとお互いに話し合わなかったんだろう。


 わかり合えないまま、家出同然で騎士学院に入学した事を話してくれたアレスの寂しそうな顔が脳裏を過る。

 お互い憎み合って離れた訳ではないのにと呟いたアンジェロに答えてくれる声などあるはずもなく、小さな呟きは誰に届く事もなく消えて行った。

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