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【完結】異世界追想譚 - 万華鏡 -  作者: 姫嶋ヤシコ
第二部

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その瞳は少しも笑ってはいなかった。-Yvonne-Ⅲ【脅迫】②


<封印の地>へ向かう途中に立ち寄る予定であった村が襲われたと言う情報が入ったのは、翌日の事だった。

 シルヴィオが出した偵察部隊の数名が応戦したものの、村人を避難させるだけで精一杯であったと言う。

 お陰で村人に死傷者は出なかったと言うが、村は廃村にせざるを得ない状況になったようだ。

 更に、偵察部隊の半数以上が負傷した為、これ以上先の偵察は危険と判断したジョエルが撤退するようシルヴィオに提言し、シルヴィオは渋々これを受け入れた。

 とうとう物資の補給も転移魔具に頼らざるを得なくなってしまい、今後の旅路は更に苦しくなるだろう事が目に見える。

 齎される情報はいずれも吉報はなく、士気も下がるばかりだった。

 そんな最中、これまでの経路で廃村になり立ち寄りを中止した村の状況を確認したいと言い出したのがシルヴィオだ。

 これには流石にジョエルも難色を示したが、何かシルヴィオなりの考えがあっての事だろうと、現在地の最短且つ前後にある廃村のみを条件に許可を出し、彼だけでは不安だと言うことで、ラディムとイヴォンネが伴う事になった。


 まずはこの現在地から最短で、ここより後ろにある廃村を目指す。

 途中に配置しておいた転移魔具のお陰で難なく辿り着いた村は、廃村になってそう長くはない為、完全に朽ち果ててはいなかった。

 けれど、漂う不気味さは廃村そのものである。

 廃村に足を踏み入れると、イヴォンネ、シルヴィオ、ラディムはそれぞれの方へと散りながら探索する事にした。

 途中、血にまみれ綿の飛び出した人形や靴が落ちているのを見かけ、何とも言えない気持ちになる。

 くちびるを噛み締め、崩れ落ちた民家を横目に廃村内を歩いていると、完全に崩れ落ちないまま残っていた民家を見つけたイヴォンネは足早にそこへ近づいた。

 民家の中は荒れ果てており、腐り落ちた天井から青い空がのぞいている。

 特に何がある訳でもなさそうだが、何となくこの民家の雰囲気に違和感を抱いたイヴォンネは、そこに足を踏み入れる事を躊躇した。


 ……この纏わりつくような嫌な空気が、ロガールにいた時に感じたものととても似ている。


 ロガールで感じた異様な感覚がイヴォンネの足元に忍び寄って来る気がして、中々足を踏み出すことが出来ない。


 ……一体、この民家の中に何があるって言うの?


 暫く入口で立っていると、別の場所を見回っていたシルヴィオがやって来た。


「あれ? 中に入らないの?」

「……シルヴィオ……。あなた、ここから何か感じない?」


 イヴォンネの問いかけに答えないままシルヴィオはズカズカと中へ踏み入り、周囲を見回した後に右手の指を鳴らすと、今まで感じていた纏わりつくような空気が嘘のように引いて行った。

 何をしたのかと訊ねたが、シルヴィオはただのおまじないだと言って答えをはぐらかすだけで話にならない。

 とりあえず中に入っても大丈夫そうな事だけ理解したイヴォンネは、民家に入ると注意深く周囲を見渡しながらシルヴィオに話しかけた。


「ねえ、どうして突然襲われた村を見たいだなんて言い出したの?」

「……ちょっと確認したい事があったんだ」

「確認したい事?」

「昨日村を襲ったのは、今まで襲われた村や町と同じ類のモノだったのかどうかをね」


 そう答えたシルヴィオは、倒れている家具や瓦礫を避けながら何かを探しているようだった。


 それにしても、"同じ類の物"とは具体的にどう言うことなのだろうか。


 消える魔物か消えない魔物と言う事なのか、それとも魔王が直接放った魔物かそれ以外の魔物、或いは賊かと言う事なのか、シルヴィオの返答は曖昧でどうとでも取れてしまう。

 シルヴィオのこの曖昧な言動は、イヴォンネの不信感を募らせるばかりだ。

 ここに来るまでにも彼の不審な言動は多々あった為、同じ騎士団の仲間であっても警戒してしまうのは仕方ない事だろう。

 絶対にシルヴィオに気を許してはならないと気を引き締めると、彼から少し離れた場所で民家の中を探索する。

 先程この民家の中から感じた異様な空気の原因は何だったのかと、ガラクタを除けながら不審な点がないかを見ていれば、ふと視界の端に掠れた落書きのようなものが目に入った。

 民家自体そう新しいものではなかったし、子供がいれば落書きのひとつやふたつくらいはあるだろう。

 何の気なしにその落書きを見たイヴォンネは、次の瞬間、思わずシルヴィオの名前を叫んだ。

 イヴォンネらしくない叫び声に驚いたシルヴィオが駆け寄って来ると、イヴォンネは彼の首根っこを掴んで強引に落書きのある壁に近づけた。


「ちょ、痛い痛い痛い痛い!」

「いいから、この壁の落書きを見なさい!」


 イヴォンネに言われた通り壁の落書きを見たシルヴィオは一瞬瞠目した後、溜息を吐き出して体勢を整える。


「……これ、私があなたに調査するよう依頼した文様と同じよね?」

「うん……そうだね、間違いないよ」

「シルヴィオ……。本当はこれが何なのか知っているんじゃないの? だからこれを探しに来たんじゃないの?」


 シルヴィオが何かを隠している事は薄々感じていたが、この文様を見つけてしまったからにはイヴォンネも黙ってはいられない。


 ここに来るまでの様々な妨害や、襲われた町や村。

 ロガールを覆うようにあったあの文様と一致する落書き。


 普通に考えて、何の関係もないはずがないのだ。

 もしこれが魔王の仕業だとしたら、ロガールに危険が迫っている事になる。

 イヴォンネの問いに答えず、落書きを指でなぞるシルヴィオは相変わらずの態度だ。


「答えなさい、シルヴィオ……。内通者がいるなんて言っていたけど……、あなたこそ怪しいわ。違う?」


 (なじ)るように言い放てば、文様を確認していたシルヴィオが立ち上がり、深い溜息を吐き出した。


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