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【完結】異世界追想譚 - 万華鏡 -  作者: 姫嶋ヤシコ
第二部

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この感情は決して彼女に抱いてはいけないものだ -Dino-Ⅵ 【渇望】⑥

 普段の倍以上の時間をかけてようやく目的地の仕立て屋に着くと、ディーノは早速持って来たマントと制服を店主に見せる。

 店主は破損したマントと制服を一通り見た後、修復するよりも新しく仕立てた方が早く安く済むと説明してくれた。

 制服に関しては、昔からロガール騎士団のものを作っている店だった為、既に仮縫いしているものが何種類かあり、採寸だけして見合ったものを手直しすれば明日の夕方には納品できるようだ。

 金額の心配は特にしていなかったが、確かに制服もかなり酷使していた為に新しく作った方が良さそうだ。

 ただ、採寸するとなるとそれなりの時間を取らせてしまう事になる。

 ちらりと視線を寄越せば、店内に飾ってある洋服を見て興奮しているプリシラと、それを見守るセシリヤの姿が見えた。

 採寸している間、セシリヤとプリシラを無駄につき合わせてしまう事になるのは正直気が引けてしまう。

 どうしたものかと考えていれば、ディーノの視線に気が付いたセシリヤが、プリシラにも新しい服を作ってもらいましょうと提案した。

 恐らく、採寸している間の時間をどうするか考えての発言だったのだろうが、流石にその提案にはプリシラも驚きを隠せず慌ててセシリヤを止めに入る。


「でもセシリヤちゃん、わたし服を作ってもらえるほどのお金をママからもらってないよ!」

「私が払いますから心配はいりません。せっかく仕立て屋さんに来たんですから、私がプリシラちゃんにお洋服を贈りたいんです。……迷惑ですか?」


 眉を下げ大袈裟に肩を落としたセシリヤに、プリシラは首がもげるのではないかと思う程首を横に振った。

(セシリヤにそんな顔をされては、流石に断る事は出来ないだろう)

 気を遣わせてしまった事を申し訳なくなるのと同時に、彼女がここで待つと言う選択をしてくれた事が嬉しかった。


「すみませんセシリヤさん。気を遣わせてしまって」

「いいえ、気なんて遣ってません。それに、プリシラちゃんに服を作ってあげたいと思っていたのは本当の事ですから、気にしないで下さい」


 店に置いてある生地を夢中で選んでいるプリシラを眺めながら答えたセシリヤに礼を言うと、ちょうど採寸の準備が出来たと言う店主に奥の部屋へ案内され移動する。

 それから暫くして採寸から解放されたディーノが店内に戻ると、そこにセシリヤの姿はなく、プリシラだけが選んだ生地を手にしながらソファに座っていた。


「ディーノくん、さいすんおわったの? おつかれさま」

「ありがとう。あの……、セシリヤさんは何処へ?」


 辺りを見回しても姿が見当たらず、どこへ行ったのかとプリシラに訊ねたが、彼女は口元に手を当てて笑いながら「お店の人がこまってたから、おてつだいしてるんだよ」とだけ言って、これ以上は答えてくれる気はなさそうだった。

 一体何を手伝っているのだろうかと疑問に思ったが、とりあえず店内にいる事だけは確かである事に安堵したディーノはそれ以上詮索する事を止め、プリシラにどんなデザインの服を作ってもらう事にしたのかを聞き出した。

 あまり子供っぽくならないよう、リボンやフリルは控えめにしたワンピースだと聞いたディーノが、それに見合う帽子をこっそり作ってあげようと近くにいた店主を呼ぼうとした時だった。

 ドレスルームの方から騒がしい声が聞こえ、何があったのかと視線を寄越せば、店員の一人がそこから興奮気味に飛び出して来る。

 店主がその様子を見て窘めたがそんな声も聞こえてはいないのか、興奮した店員はディーノとプリシラの元へ駆け寄り、すぐにドレスルームへ来て欲しいと促した。

 一体何があったのかと首を傾げるディーノを他所に、プリシラはどこか含んだ笑みを浮かべている。

「行ってみようよ」と有無を言わさずディーノの手を引いて行くプリシラに戸惑いながら、店員に案内されるままドレスルームのドアを開け、それから目に飛び込んで来た人物の姿に思わず目を見開いた。


「うわあああ、セシリヤちゃんきれい! とっても似合ってるよ!」


 美しいドレスを纏ったセシリヤに駆け寄ったプリシラが、ドアの入り口で固まっているディーノにおいでよと手招きし、ドレスを着たセシリヤの感想を求めて来る。

 セシリヤは無理強いはいけないとプリシラを制したが、一緒にいた店員も期待の眼差しでディーノを見つめていた。


 白地に薄いピンクのグラデーションが裾にかけて入っており、セシリヤの髪色にも良く似合っていて、控えめな露出は上品な美しさを演出し、所々ポイントに着けられている装飾品は更に彼女の魅力を良く引き出している。


 女性のドレスには疎いディーノだったが、素直に見たままの感想を伝えれば、セシリヤの頬に僅かに朱が差したのが見え、何かおかしなことを口走ったのではないかと途端に不安と恥ずかしさがこみ上げて来た。


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