この感情は決して彼女に抱いてはいけないものだ -Dino-Ⅵ 【渇望】④
*
「イヴォンネ団長のお嬢さんと一緒だったんですね……」
プリシラの登場で、危うく感情の波に流される所を踏み止まったディーノは、セシリヤに勧められるままテーブルに着き共にお茶を啜っている。
ディーノの目の前にはセシリヤ、そしてその隣にはイヴォンネの娘であるプリシラが座っており、先程の光景をこんな小さな少女に見られていたのかと思うと恥ずかしくて死にそうだ。
(決して顔には出さないが)
「今日はセシリヤちゃんと遊びに来たの! それで、わたしが飲み物を注文して買って来たのよ! もう一人でおつかいもできちゃうんだから!」
すごいでしょう、と誇らしげに話すプリシラの頭を撫でながら同意するセシリヤを見て同じように褒めてやれば、嬉しそうに笑う顔が見えた。
それにしても、ほぼ女性客で埋まっている店のテーブルに男が一人混ざっているだけで、随分と注目を浴びている気がして落ち着かない。
眼帯は元通りに着けたとは言え、周囲から遠慮なく刺さる視線はあまり気分の良いものではなかった。
不快感に眉を顰めていれば、目の前のプリシラがどうしたのかと首を傾げてディーノの様子を窺っている。
そう言えば、プリシラにもこの傷跡を見られてしまったなと、何となく手持無沙汰に眼帯を触っていれば、不意に小さな手がディーノの眼帯を触っている手に重ねられた。
「そこ、痛いの?」
どうやら痛みを感じて眼帯を触っているのだと思ったプリシラが、心配してくれているようだ。
「いえ、もう随分前の怪我なので、痛くはありません」
「そっか……、良かった!」
ディーノの返答を聞いて満面の笑みを浮かべたプリシラに瞠目していると、小さな笑い声が聞こえてセシリヤの方に視線を移す。
「プリシラちゃんなら、大丈夫ですよ」
何がとまでは言わなかったが、恐らく傷跡を見ても怯んだりしないと言う事だろう。
確かに、この傷跡を見てもプリシラには何の変化も見られなかった。
大人の女性でも酷い時は悲鳴を上げる事もあるのだから、子供ならば泣き出してしまってもおかしくはないだろう。
プリシラが純粋な子供であるせいなのか、それとも普通の子供より聡明であるせいなのかは判断出来かねるが、態度が変わらなかったと言う事実はディーノにとっても有難かった。
安堵の溜息を心の中で吐き、それからこれ以上二人の休日を邪魔する訳には行かないと考えたディーノは、手元にあるお茶を飲み干すと、当初の目的であった仕立て屋へ行くと言って席を立った。
「もう行っちゃうの?」
「制服の修繕を依頼しに行かなくてはならないので。それに、二人のせっかくの休日を邪魔する訳には行きませんから」
引き留めるプリシラの前に膝をつき視線を合わせて説明すれば、彼女は何かを考えた後、セシリヤとディーノの顔を見比べ、
「わたしも一緒にそこへ行ってもいい? ママにね、そろそろ一回りサイズの大きな服を仕立ててもらわなくちゃって言われてるの! だからね、仕立て屋さんがどんなところなのか、ママと行くより先に行って見てみたいの!」
お願い良いでしょう、と愛らしい動作で懇願するプリシラの願いを無下に出来る程、ディーノは冷淡ではない。
ただ、二人に別の予定があったのではと思うとすぐには頷く事が出来ず、助けを求めるようにセシリヤに視線を寄越せば、意外にも彼女はプリシラの願いをすんなりと聞き入れ、三人で仕立て屋に向かう事になるのであった。




