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【完結】異世界追想譚 - 万華鏡 -  作者: 姫嶋ヤシコ
第二部

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この感情は決して彼女に抱いてはいけないものだ -Dino-Ⅵ【渇望】③

「見苦しい真似はやめろ。迷惑しているのがわからないのか?」


 女性の手を掴む男の顔を睨みつけ、それからちらりと女性の方を見やれば、思いがけない人物であったことに一瞬気を取られてしまう。


 いつもと違う服装と髪型のせいですぐに気づけなかったが、女性は間違いなくセシリヤだった。


 驚いてお互い数秒見つめ合ってしまったが、ふと我に返ると視線を不躾な男へ戻し、セシリヤの手を放すように警告する。

 しかし男も負けじと食ってかかって来た為に、仕方がないと男の腕を制止していた手に力を込めれば、途端に顔を歪め、その異変に気付いた他の二人が慌ててディーノから男を引きはがして距離をとった。

 それからお決まりの捨て台詞を吐き捨て逃げて行く三人の情けない姿を一瞥した後、再び視線をセシリヤへ戻した。


「ありがとうございます、ディーノ副団長」

「困っていたようだったので……。でも、何故抵抗しなかったんですか? セシリヤさんなら余裕だったんじゃ……」

「一応相手は一般の方ですし、お店に迷惑がかかってはいけませんから。それに、どこか物陰にでも連れ込まれた方が、何かと人目につかなくて都合が良いじゃありませんか」


 あのアルマンすら余裕で沈めることの出来る右手で拳を作り、悪戯に笑うセシリヤに苦笑しながら、ディーノは色々な意味で止めに入って良かったと心の中で安堵する。


「そう言えば、ずっと前から気になっていたんですが……、いつの間にか敬語に戻っていますよね。どうしてですか?」

「え……? ああ……、その……」


 急に余所余所しくなって寂しいです、と言うセシリヤの指摘に理由を説明しようと焦るディーノだったが、クスクスと笑っている彼女の姿を見て揶揄われていることに気が付き、溜息を吐き出した。


「揶揄わないで下さい……。ただ、敬意を払っているだけです」

「立場はディーノ副団長の方が上ですよ?」

「いえ、それでもです。それに、俺が落ち着かないんです」


 確かに今は彼女よりも立場は上だが、騎士団に入団したのはディーノの方がずっと後だ。

 しかし、彼女に対して敬語を使わずに話す事がどうにも慣れなくて、いつの間にか敬語に戻ってしまっていた。

 恐らく、彼女に対しての後ろめたさも手伝っているのだろう。

 僅かな沈黙に気まずさを感じて目を逸らせば、不意にセシリヤの手がディーノの左頬に優しく触れた。


「今日は眼帯、してないんですね」

「あっ、いや、これにはちょっと理由があって……」


 逃げて行った男たちの存在に気をとられてすっかり忘れていたが、先程言い寄って来た女を追い払う為に眼帯を外したままでいたのだ。

 ちらりと周囲を見渡せば、傷跡を見た女性客が怯えたような表情を浮かべて、ヒソヒソと顔を寄せ合い話をしているのが見えた。


「すみません、見苦しいものをお見せして……」


 不快にさせてしまった事を詫びながら、感じた惨めな気持ちに気づかないふりをしてポケットにしまってあった眼帯に手を延ばした時、


「その傷は、あなたが命懸けで仲間や後輩を護り戦って負ったものです。あなたのお陰で、今を生きている人たちがいるんですよ。それに、私はその傷を見苦しいだなんて一度も思った事はありません。だからあなたも卑下などせずに、堂々と胸を張って誇るべきです」


 真っ直ぐに瞳を見てそう話すセシリヤの言葉に、ディーノは何と返せば良いのかわからなかった。

 今まで、誰にも言われたことがなかった言葉。

 同情や慰めの言葉は飽きる程聞いてきたが、「誇れ」と言ってくれたのはセシリヤが初めてだ。

 汚点でしかないこの顔の傷跡を見て動じる事もなく、更にそれを肯定された事でディーノの暗く沈んでいた心が救われた気がした。


「ごめんなさい……、断りもなく触れるのは、失礼でしたね」


 何も言えずにいた為に良くない方へ誤解をさせてしまったのか、セシリヤは眉を下げてディーノの頬に触れていた手を放す。

 触れていた指先が肌を離れた瞬間に思わずセシリヤの手を取れば、彼女は驚いてはいたものの、それを振りほどく素振りは見せなかった。


「ディーノ副団長、どうしたんですか?」


 何故こんな行動を取ったのか自分でもよくわからず、何か言わなければと口を動かしても言葉が出て来ない。

 衝動的に取ったセシリヤの手を放す事も出来ないままお互いを見つめ合っていると、不意に小さな影がテーブルにある事に気が付いた。

 視線を寄越せば、小さな少女がきょとんとした顔をして立っている。

 両手に飲み物を持った彼女は、セシリヤとディーノを交互に見比べると、


「ねえねえ、セシリヤちゃん。その人、だぁれ?」


 くりくりとした大きな瞳を輝かせてそう訊ねた。




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