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【完結】異世界追想譚 - 万華鏡 -  作者: 姫嶋ヤシコ
第二部

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202/290

この感情は決して彼女に抱いてはいけないものだ -Dino-Ⅵ【渇望】②

 城下の街は普段と変わらずの賑わいを見せている。

 今、勇者達が命懸けで魔王討伐の遠征をしていると言うのに、人々はそんな事すらも気にしていないように思えた。

(気にしていないと言うよりも、必ず魔王を倒してくれると信じ切っているのかも知れない)

 そんな人々を横目に、ディーノはマントと制服の修繕をしてくれる仕立て屋へ急ぐ。

 その道すがら、建国祭で魔物の襲撃によって破壊されてしまった建物が建て直されていたり、新しい店が開いていたりと街並みが変わっている事に気が付き、この国の人間の逞しさに感心する。

 特に目を引く建物は、新しく出来たと言う女性向けの可愛らしいカフェで、そこは他と比べても随分と盛況のようだ。

 店内だけでなく、店外にもお洒落な日除けパラソルがついたテーブルと椅子があり、どの席も満席になっている。

 何とはなしにその光景を眺めて歩いていれば、ふと、異様な雰囲気に気がついて足を止めた。


 ほぼ女性で埋め尽くされていると言っても過言ではない店であるにもかかわらず、その場所には似つかわしくない男が三人、店外の席の一つを囲むように立っている。


 先程城門で会ったマティから「小さな揉め事が多くて困る」と言う話を聞いていた為、お世辞にも柄が良いとは言えないその三人の動向が気になり、何か問題が起きてもすぐに対処できるよう注意深く様子を窺った。

 男たちの陰に隠れてしまっている為に姿は見えないが、どうやら彼らは席に座っている女性に言い寄っているようだ。

 へらへらと軽薄な笑みを浮かべながら、時折馴れ馴れしく女性の肩に触れる動作が見え、その下劣さに心底吐き気がする。

 このまま放って置けば絶対に良い事にはならないと思ったディーノが足を踏み出した直後、突然背後から荷物を持っていない片腕を絡めとられてその場から動けなくなってしまった。

 振り返らなくても、鼻をつく甘ったるい香水の匂いでどんな人間が腕を絡め取っているのかが分かってしまう。


「お兄さん、こんな昼間から暇を持て余してるんじゃない? 顔も良いしお金も持ってそうだし、……ちょっと遊んで行ってよ」


 青空の下には似つかわしくない派手な化粧、無駄に露出の多い下品な服装、誘うような視線。

 どうやら、この近場に()()()()()があるらしい。

(だいたいこう言った客引きは夜に姿を見せるのだが、こんな昼間から見かけるのは珍しい事だ)

 一見ロガールの城下街は上品且つ華やかでそんなものとは縁遠い場所に思えるが、一本入った路地裏はまるで世界が違うのだ。

 あまり推奨したい場所ではなかったし、積極的に踏み入れたい世界でもなかったが、彼女も生活の為にしている事だと思うと無下に断るのも気が引けてしまう。

(恐らく彼女もそれなりのプライドを持って仕事をしているだろう)

 そうかと言ってディーノには素直について行くと言う選択肢はなく、気は進まなかったが彼女の方から離れて行ってもらえるよう眼帯に手をかけた。


「男としては有難いお誘いだな」

「それじゃあ……」

「だがこの通り、顔半分は醜くてね。……それでも遊んでくれるって言うのか?」


 眼帯を外し、左側の顔を隠すように覆っていた髪を手で払って素顔を見せると、先程まで好意的な態度だった女が面白い程に豹変する。


 焼け爛れたような傷跡は広範囲に及び、自分で見るのも嫌になるくらい醜い。


 まるで化け物でも見たかのような顔をして、いそいそとこの場を離れて行く女に呆れたような溜息を吐き出すと、ディーノは先程見ていた男たちの方へ足早に歩き出した。

 声をかけて来た女をあしらっている内に状況は更に悪化していたようで、三人のうちの一人が強引に女性の手を掴んで連れて行こうとしている。

(周囲の人間は関わりたくないと言わんばかりにチラチラと視線を寄越しているだけだ)

 やはり注意して見ていて正解だったと、急いで女性の手を掴んでいる男の手を制止した。


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