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【完結】異世界追想譚 - 万華鏡 -  作者: 姫嶋ヤシコ
第二部

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握った鳥籠の鍵は、未だ捨てられないままだ -Margret- Ⅲ【未練】①

 勇者一行がロガールを発ってからおよそ三ヶ月が過ぎた。

 道中、各所で様々な問題は起こっているものの、今の所特に大きな怪我や事故に見舞われる事無く旅は進んでいるようだ。

 謁見室に設置された転移魔具から定期的に届く彼らの連絡に胸を撫でおろしたマルグレットは、早々に退室すると医療棟へ急ぐ。

 最近は特にこれと言って大きな襲撃もないのだが、医療団は毎日大忙しだ。


 その理由は、イヴォンネの娘・プリシラの存在である。


 今回の魔王討伐にイヴォンネも同行する事になった為、彼女が不在の間、セシリヤがプリシラを預かる事になったのだ。

(勿論、業務に支障が出ては困るので、魔術団でも交代に面倒を見る約束だ)

 プリシラは非常に子供らしく純粋で愛らしい反面、イヴォンネの娘らしく様々な魔術に長けていた。

 今まで魔術塔からあまり出る事のなかった彼女は医療団員の仕事に興味深々で、仕事をこなすセシリヤの後をくっついて離れず、しまいには短期間に独学で治療魔術を習得すると言うとんでもない才能を発揮して見せたのである。

(中級程度だったがこれにはユーリも相当驚き、そして落ち込んでいた)

 素晴らしいとマルグレットが褒めると、やがてプリシラは覚えた治療魔術を使ってセシリヤのもとに運ばれて来る重傷の騎士の治療を手伝いはじめた。

 その一生懸命な姿を傷の痛みと熱に魘されながら見ていたとある騎士が、プリシラを天使と見間違え、「医療団に愛らしい小さな天使が降りて来た」と周囲に吹聴した結果、とんでもない勢いで噂がひとり歩きしたのである。

 それ以降、尾ひれ背びれがついた噂に踊らされ一目見たいと下心を持った一部の騎士たちが、連日医療棟に怪我人として押し寄せる事態となっているのだ。

(勿論、本当に怪我人であれば診るが、大したことのないかすり傷やごく軽い打ち身程度の人間は門前払いしている)


 そして、今まさにマルグレットの目指している医療棟の総合救護室の前は、性懲りもなくプリシラ目当てでやって来た騎士がたむろしていた。

(一目見ようとガラス窓にべったりくっついて、部屋の中を見ている人間もいる。正直、気持ち悪い)


 大変迷惑である。


 深呼吸して怒鳴りたい気持ちを抑えたマルグレットは彼らの前に立ち、冷静に言葉を選びながら浮かべたくもない笑顔を浮かべて対応しなければならない。


「誇り高き騎士の皆様。用がないのでしたら早く持ち場へお戻り下さい。今、勇者様一行が魔王討伐の為にこの国を留守にしている状態です。あなた達はその間、国を、城を守る事を託されたのではありませんか?」


 声をかけられる直前までプリシラへの熱で沸いていた彼らは、マルグレットの存在に気づくと身体を硬直させ、引きつった笑みを浮かべながら謝罪し蜘蛛の子を散らすように逃げて行ってしまった。

(マルグレット的には笑顔で対応したつもりだったが、どうやら沸きあがって来る怒りが抑えきれていなかったようだ)



 ……まったく、ロガールの騎士とあろう者が情けない。



 心の中でまだ幼い少女に熱を上げる不届きな騎士たちにそう呟き救護室に入ると、外の人だかりを追い払った効果があったのか、先程までの慌ただしさはすっかりなくなっていた。

(どうやら救護室の中にも不届きな騎士たちがいたようだ)

 怪我人を装った騎士たちの、治療と言えない治療から解放された医療団員がマルグレットに感謝を伝えるが、団長として当然の事をしたまでだ。

 団員たちに礼は必要ないと答えて更に奥の部屋へ足を踏み入れば、疲弊しきって床に座り込むユーリとプリシラ、それからそんな二人を見て苦笑しているセシリヤの姿が見えた。


「セシリヤ、何かあったのですか?」

「実は、プリシラちゃんが書庫へ借りた絵本を返しに行きたいと言うので、ユーリと一緒に行かせたんです。そうしたら……」

「知らない人たちが、わたしの名前を呼びながら追いかけてきたの! 逃げても逃げても追いかけて来るし、大きい猛獣みたいですっごくこわかったんだから!」


 知らない人とは、と首を傾げたマルグレットにすかさずユーリが「プリシラちゃんの噂を聞きつけた騎士の事です」と付け足し、一体どこまで噂が広がっているのかと思わず頭を抱えてしまった。

 このままでは、医療団全体が健全な職務を全うする事も難しくなる。

(フレッドがいれば多少は違ったのかも知れない)

 絵本を返す事が出来なかったと涙目で訴えるプリシラを宥めるセシリヤの様子を窺い、それから今、プリシラ目当ての騎士たちがいない現状を見たマルグレットは、少し思案した後決断した。



「セシリヤ。大変急ですが、明日はプリシラちゃんと一緒に休暇とします。たまには二人で一緒に、城下で気ままに過ごしては如何ですか?」





【52】




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