表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】異世界追想譚 - 万華鏡 -  作者: 姫嶋ヤシコ
第二部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

195/290

この残酷で優しい温もりに溺れてしまえればどれだけ良かっただろうか -Joel- Ⅴ【不穏】③

「しかし……、もしも魔王側についている人間がいたとして、何故今のタイミングになって妨害をして来るのか……」

「まだ完全に復活しきっていない魔王のいる<封印の地>に行くまでの時間稼ぎと言えば、そう思えなくもないけど、何かしっくり来ないよねぇ……。ただ時間を稼ぎたいならもっと前から出来たと思うんだ。現にこうして騎士団ロガールに潜入出来てるんだからさ。それに、町や村を襲ったのが魔物だったり賊だったり、まちまちって所も何だか引っかかるんだよね……」


 シルヴィオの見解に同意しつつ、無言で紙を見比べているイヴォンネに視線を寄越せば、彼女も何か疑問に思う事があったのか眉を顰めて頷いている。


「ねえ……。この報告、襲って来た魔物を倒した人の証言に、"死骸が消えた"って書いてあるんだけど……」

「さすがイヴォンネ団長、目ざといね!」


 茶化すようなシルヴィオを睨みつけたイヴォンネだったが、相手にするのも馬鹿らしいと思ったのか特に何も言わず、すぐにジョエルに向き直った。


「ここに来るまでの道中襲って来たのは、賊を倒した後の血の匂いに誘われて来た"消えない魔物"だった。でも、どうして村や町を襲ったのは"消える魔物"なのかしら?」

「実は、第三騎士団でも調べていたんだが、"消える魔物"はロガール領内にしかいないと報告が上がっていたんだ。でも、地図上の町や村はロガール領内ではないにも関わらず"消える魔物"に襲撃されている。何故そこにその手の魔物が出るのかと言うのは解らないが、確実に狙ってやっていると言う事だけは確かだろう」


 ことごとく潰された経路が物語っている事実を述べたジョエルは、イヴォンネの手にある紙を覗き込む。


「それにしも、どうして直接私たちを攻撃して来ないのかしら?時間稼ぎとは言え、数ある村や町を襲撃するよりも、進軍している私たちを直接攻撃した方が効率も良さそうなのに」


 確かにイヴォンネの言う通り、時間稼ぎをするのなら経路をことごとく潰すよりも、軍を直接襲い疲弊させた方が効率は良いだろう。

 軍が疲弊しきって士気が下がれば、進軍も難しくなり一時撤退せざるを得なくなる。


「時間稼ぎに変わりはないが、……何か別に目的でもあるのだろうか?」

「別の目的って言うと?」


 シルヴィオが続きを急かすように疑問を投げかけた。


「経路を潰したところで回り道は残されている訳だから、進軍は止まらない。そうなると<封印の地>に到着するまでの時間は、確実に稼げるだろう」

「まあ、物資も転移魔具を使って運べば何とかなるしね」

「それから進軍が長期化すれば、その分ロガール自体の戦力が落ちた状態が続く事になってしまう」

「……そこを狙っている可能性があるって事?」


 シルヴィオの問いかけに頷くと、彼はどこか満足そうな顔をして納得したのか、何かを考え込むように黙ってしまった。


「とは言え、魔術団の結界も以前より強固になっている。それに、これだけ遠回りさせるような事をしているのだから、今すぐロガールに何かを仕掛けると言う訳でもないだろう」

「それじゃあ、このまま進軍するつもり?」

「今ここで引き返しても、結局は<封印の地>へ行かなければならなくなるんだ。私たちには、"進む"しか選択肢は残されていない。それに、立ち寄った先々に転移魔具を設置すればいつでもそこへ行けるようになる。進まない理由はない」


 そうイヴォンネに話せば、彼女は渋々ながらジョエルの判断に同意した。

 残る疑問は、ロガールだけにしか見られなかった"消える魔物"が狙ったかのように経路上にある町や村に現われた事だ。

 恐らくシルヴィオの言う通り、内通者がいて情報を漏らしているのは確かだろう。

 しかし、どうやってその"消える魔物"を現地に送り込んでいるのか。

 旅の道中、ジョエル達はそれらの魔物にまだ一度も出くわしていない。



 ……まるで、転移魔具を使用しているようだ。



 あり得ない憶測とわかってはいたが、どうしてもその可能性を捨てきれない。


「イヴォンネ、転移魔具の管理は誰が?」

「基本的には私。今はロータルに全て任せているわ。失敗作も試作品も併せて()()()()()してるから、持ち出される可能性は皆無よ」


 念のためにイヴォンネに確認してみたが、彼女の言う厳重な管理をすり抜けてまで転移魔具を持ち出す事は不可能だろう。

(イヴォンネの仕掛ける罠は、対象を口には出せないほど酷い目に遭わせると評判である)

 転移魔具が不正に持ち出されている可能性が消えると、いよいよ行き詰まってしまう。

 イヴォンネから返された二枚の紙を眺めながら、もう一度あらゆる可能性を考えていれば、


「シルヴィオ。だいぶ前にあなたに依頼した件、どうなってるの?」

「ああ、あの文様の事? それはまだ調査中だよ」


 どうやらイヴォンネが個人的にシルヴィオへ調査依頼を出していたらしく、ジョエルは何の依頼だったのかを訊ねて見る。


「結界が薄くなっている個所があると報告があったんだけど、その場所を繋ぐとロガール城を中心にして魔法陣のような奇妙な文様が浮かび上がったの。術式に思い当たるフシもないから、そう深刻に受け止める事もないとは思ったんだけど……、念のために調べてもらってるのよ」


 まだわからないみたいだけど、と溜息を吐いたイヴォンネにシルヴィオが軽い謝罪をする。


 ……最近は、第二騎士団の手に負えない調査依頼が増えているのか。


 ディーノが出した"消える魔物"についての調査依頼の回答も、結局は詳細不明であった事を思い出しながら、ジョエルは情報を元に考えられる可能性を口にした。


「例えばの話だけれど……、その文様が空間を転移させる魔法陣のような役目を果たしているとしたら、魔王が直接ロガールに"消える魔物"を送り込む事も出来るんじゃないのかな」

「だとしたら矛盾するわ。結界が薄くなっていると報告があったのも、文様が浮かび上がっている事がわかったのもつい最近だし、"消える魔物"はそれよりずっと以前からロガールに出ていたんだもの、説明がつかないわ。確証を得るには、"消える魔物"に襲撃された村や町も調べて見ない事には何とも……」


 それもそうかと再び頭を悩ませていれば、


「二人とも、ずっと魔王に固執してるけど……、一旦、魔王から離れて考えて見る事も必要かもね。王を敵視してる人間もこの世には沢山いるんだし、もしかしたら魔王とも限らない。もっと視野を広く持たなきゃ」


 今までジョエルとイヴォンネの話を黙って聞いていたシルヴィオが口を挟んだ。

 確かに彼の言う通り、"魔王"の動きばかりに注目していて視野が狭くなっているのかも知れない。

 それに、今は内通者がいる可能性も考慮しなければならないのだ。

 どんな些細な事でも見落とさないよう細心の注意を払うべきだろう。

 偏っていた思考をゼロに戻したジョエルは、シルヴィオに見解を求めた。


「シルヴィオ、君はどう考える?」

「え、僕? んー……やっぱり、内通者の疑いがある限り、"魔王"と"魔王とは別の何か"が裏で動いてるって考えるのが妥当かなぁ。確証がある訳じゃないから、まだどちらか一つに断定するのは尚早だと思う。最悪どっちも動いてるって事も考えられるし」

「結局、あなたもわからないんじゃない……」

「とりあえず、城に残ってもらったアンジェロには常に怪しい動きがないか警戒するようには伝えてあるし、いざとなった時の為に色々と下準備はしてあるから心配いらないよ。今は、目先の事だけ考えて最善の行動を取って行こうよ。ユウキくんにも余計な心配はかけたくないからさ。それと、内通者の件はジョエル団長とイヴォンネ団長にしか言ってないから、内密によろしく」


 そう言って一足先にテントを出るシルヴィオ見送ると、その場にイヴォンネとジョエルだけが取り残される。

 相変わらず何を考えているのかさっぱりわからないと憤るイヴォンネを宥めながら、ジョエルは先程から妙な胸騒ぎを覚えていた。


 自分のあずかり知らぬ所で、良くない事が起こっているような気がしてならないのだ。

 何より、ロガールに残して来たセシリヤの事を想うと、より一層胸の奥がざわついて仕方がない。


 重苦しいテントを出て夜空を見上げれば、満天の星が広がっている。

 同じ星空の下、彼女が何事もなく平穏に過ごせている事を願い、静かにその愛しい名前を呟いたのだった。


【END】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ