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【完結】異世界追想譚 - 万華鏡 -  作者: 姫嶋ヤシコ
第二部

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この残酷で優しい温もりに溺れてしまえればどれだけ良かっただろうか -Joel- Ⅴ【不穏】②


 シルヴィオが出していた偵察部隊から一報を受けたその日の夜、ジョエルは野営の準備をしている傍らで再び会議を開いていた。

 一報によれば、この先にある村がつい数日前に魔物に襲われ、予定していた物資を提供できなくなっていると言う。

 死者や怪我人も多く出ていて、早急に救援が必要である旨も書かれていた。

 すぐに救援要請をロガールに出したジョエルは、この一報と併せて地図上の経路を再確認しながら頭を悩ませる。

 小さな村故に魔物に立ち向かえる人間も少なく、更にロガールの統治下にはない為にすぐに異変に気付けなかった。

 致し方ないとは言え、痛ましい事だ。


「村へ立ち寄るのは避けた方が無難かと。今は被害にあった村人も冷静ではないでしょう。救援部隊ではない我々が立ち寄る事で、下手に刺激してしまうのは得策ではありません。殊に、勇者様を連れて立ち寄れば、理不尽な感情をぶつけられてしまうことも考えられますから」


 ラディムの提言に賛成する意見は多く、勇者の精神衛生を考えれば避けるべきだろう。

 しかし勇者の意見を無視する事は出来ないと、ジョエルはこの会議を静かに聞いているユウキへ視線を投げかける。


「勇者様は、どうお考えですか?」


 突然話を振られた事で少し驚いたようだが、ユウキはすぐに何かを考える素振りを見せた後、村へ立ち寄りたいと答えた。


「ラディムさんの言う通り、理不尽な感情を向けられるかも知れません。でも、少しでも彼らの慰めになるなら、立ち寄って彼らの声に耳を傾け現状を知った方が良い気がします」

「しかし……、どんな暴言を吐かれるか……。最悪、危害を加えられる可能性もあるんですよ?」

「"勇者"は、ただ魔王を倒すだけではいけないと思います。"勇者"に希望を見出し期待している人の為にも、出向かないと……。人々が弱っている時こそ寄り添って力になってあげられるのが、本当の"勇者"じゃないかって……思うんです、けど……」


 心配するラディムにそう言ったユウキは、そこで彼に集中する視線に気づき「生意気な事を言ってごめんなさいっ」と俯いてしまった。

 けれど、その場にいる人間は非難の視線を向けていた訳ではなく、ただ純粋に感心してユウキを見ていただけだ。


 その証拠に、彼らの視線から負の感情は微塵も感じられなかった。

(本人は気づいていないのだろうけれど)


 彼らもまさか、こんな少年に諭されるとは思っていなかったのだろう。

 ジョエルも自然と口端が上がっていた。


「では予定通り、村には立ち寄るとしよう。ロガールの統治下になかったとは言え、協力を快く受け入れてくれた村だ。勇者様の言う通り、少しでも彼らの傷ついた心に寄り添えるよう尽力して欲しい」

「物資については、ロガールからの救援部隊に運ぶよう指示しましたので、今回は転移魔具の使用は致しません。予定通りこのまま先へ進みましょう。それからこの先、状況によっては都度経路変更をする場合があるので、頭に留めて置いて下さい。それでは、解散と致します」


 ラディムの解散の合図で皆が次々とテントを出て行く中、シルヴィオとイヴォンネだけが席から立とうとせず、皆の前では言えない事でもあったのだろうかと心配したジョエルは、人が出払った事を確認してから二人に声をかける。

 先にジョエルの声に反応したのはシルヴィオで、彼は怒らないでねと前置きすると、ポケットから二枚の紙を取り出して見せた。


「会議の直前に、もう一つ連絡が入ったんだ。優秀な子達だから、僕が思っていたより先まで偵察に出てくれたみたい」


 差し出された二枚の紙を受け取ったジョエルはすぐに目を通し、そして思いがけず状況が良くない事を理解して溜息を吐き出す。


「まさか……、どうしてこんな事に……」

「まあ、そうなるよね。さっきの会議で事実を伝えるには気が引けて、言えなかったんだ。ユウキくんが折角頑張ってるのに、話の腰を折って邪魔したくなかったしね」


 眉を下げてそう言ったシルヴィオの気持ちもわからない訳ではないと、ジョエルは同意した。

 それにしても……。


「この先にある村もそうだが……、更に先へ行く道も町も、ことごとく何らかの襲撃を受けているのはどう言う事なんだ……?」


 一枚目の状況説明の文書と、もう一枚の簡易の地図を見比べながらジョエルは唸る。

 道中の土砂崩れや橋の崩落に、町や村への襲撃の跡。

 仮にこの土砂崩れや橋の崩落が偶然であったとしても、町や村への襲撃はどうなのか。

 ふたつの事象が合わさり完璧に経路が潰されている事を偶然と捉えるには、些か不自然すぎる。


「ちょっとそれ、見せてくれない?」


 二枚の紙を見比べていると、いつの間にかイヴォンネがジョエルの目の前に立っており、言われるままに彼女にそれらを渡すと、続けてシルヴィオに自らの考えを述べた。


「あまりにも完璧に経路が潰されている。二十年前とは違って多少地形も変わった為に経路をあえて変更している所もあるのに……。それに、よく見れば回り道だけ残されているのもおかしな話だ。偶然として受け取るには不自然すぎる」

「だよねぇ……。薄々思ってはいたけど、やっぱり内部に()()と思うんだ」


 "何が"とまで言わずとも理解したジョエルは、シルヴィオに見当はついているのかと訊ねたが、彼は首を横に振るだけだった。


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