……それでも、あなたは僕の味方でいてくれますか? -Yuki-Ⅲ【選択】⑤
優希が勇者として国民に紹介される日まで、後一週間。
この日、優希は王から三度目の謁見を許され寝所へ通される事になった。
寝所のドアを遠慮がちに開けると、神妙な面持ちの王がベッドに座っているのが見える。
顔色の悪さを見る限り、ベッドから降りる事は許されなかったのだろう。
アンヘルからベッド脇にある椅子へ座るよう促され従うと、彼はお辞儀をして部屋を出て行ってしまった。
二人きりの部屋に重たい沈黙が流れるが、その空気をどうにか出来る程優希に余裕はなく、王の言葉を待つしかなかった。
「式典まで、後、一週間だ」
「……そう、ですね」
目を合わさないまま呟かれた言葉に短く返事をすると、王は深い溜息を吐いて優希へ視線を向ける。
「……お主に、言っておかねばならない事がある」
少しだけしわがれた王の声が、静寂を切り裂くように空気を震わせた。
「お主が"魔王"を倒す為に召喚された"勇者"と言うのは嘘だ。この世界には元々、"勇者"も"魔王"も存在していない。"魔王"とは、この世界に存在する邪神であり、"勇者"とは、その邪神と契約させるための生贄なのだ……」
三代目勇者の日記にあった通りだと、優希はどこか他人事のように思いながら王の言葉の続きを待った。
「……もう、気づいているだろう。……"魔王"と呼ばれるその正体は、邪神と契約を交わした異世界の人間だ」
王の言葉に、優希はぐっと息を詰まらせる。
―――邪神と契約を交わした異世界の人間……、千月晴馬と言う青年だ。―――
脳裏に浮かんだ三代目勇者の日記の一文と一致する言葉。
あの日記に書かれていることが事実であったと、優希は嫌でも納得せざるを得ない。
「私は邪神と契約を交わしてしまった"彼"を、何としても助けなければならないのだ。その為に、この世界に留まったと言っても過言ではない」
王のやせ細った頼りない手がシーツを強く握り締める様は痛々しく、優希は膝元に置いてある自分の手にそっと視線を落とした。
それにしても、"魔王"が同じ異世界の人間であるから助けたいと言う理由だけでこの世界に残り、人生の半分以上を費やすなど出来るものなのだろうか。
"魔王"が親しい友人や肉親であれば残ると言う選択も頷けるが、王の様子を見る限り、そう言う訳でも無さそうだ。
そこにもっと別な理由があるのではないかと疑問を持った優希は、逸らした視線を王へ真っすぐ向けると重たい口を開く。
「……どうしてその人を助けたいのか、聞いても良いですか? ただ同じ異世界の人間だから助けたいと言うだけでは、王様がこの世界に残った理由としては弱い気がします」
自分でも驚く程に冷静な声音だった。
「……私の、恩人との約束だからだ」
「恩人……?」
そう復唱すると、王は少しだけ昔話に付き合って欲しいと言い、優希は断る理由はないと頷き返す。




