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【完結】異世界追想譚 - 万華鏡 -  作者: 姫嶋ヤシコ
第二部

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……それでも、あなたは僕の味方でいてくれますか? -Yuki-Ⅲ 【選択】④


「リアンっ! 待って!」


 慌ててその後を追った優希が角を曲がると、そこには全焼した店舗の残骸があり、その残骸の前でスコップを持った三人の男が何やら騒いでいるのが見えた。


「うわっ……、ちょっ、何? ……って、これユウキくんの猫じゃん」

「シルヴィオ団長、随分威嚇されているようですが、……一体何をしたんですか?」

「マティくんも失礼だなぁ! 僕、何もしてないよ?」

「何もしないで、どうやったらここまで威嚇されるのか……」

「マティ、あまりいじめてやるなよ。一応シルヴィオもお前より上の立場なんだからな。……で、捕まえたこいつはどうすりゃいいんだ?」


 よく見知った顔ぶれに安堵すると、優希はリアンを片手で雑に持ち上げるレナードに近づいて声をかける。


「お、おつかれ様ですっ! あのっ、リアンがご迷惑おかけしました!」


 勢い良くお辞儀すれば、三人の視線が優希に集中して非常に居心地が悪い。

 レナードからリアンを受け取りすぐにその場を後にしようとした優希だったが、一足先にシルヴィオが退路を断つように回り込み話しかけて来た為に、断念せざるを得なかった。


「ユウキくんが一人で城下に出るなんて珍しいね。一応離れた所に護衛もついてるみたいだけど……、気分転換?」

「……はい。セシリヤさんに勧められたので」

「散歩するにしても、こんな所に来るのは感心しねぇなぁ。火事のせいで一時的に治安が悪くなってるんだ、さっさと城に帰った方がいいぜ?」


 呆れたように言うレナードの言葉に同意しつつも、シルヴィオが道を塞ぐように立っているから無理だとは言い出せず、とりあえずこの場を愛想笑いでごまかした。

 まだ周囲を威嚇し続けるリアンを落ち着かせるように撫でながら、彼らがどうしてここにいるのかを問えば、火元になった本屋の店主の遺族から遺品を探して欲しいと頼まれたのだとマティが説明し、レナードとシルヴィオがそれに頷いた。


「ここが本屋さんだったんですね……」

「うん、そうだよ。この国で古書を多く扱ってた店らしくてね。貴重な古書もこの通りまる焦げ」


 シルヴィオが残念そうに焼け跡を眺め、優希も同じようにそこを眺めた後に黙祷する。

 黙祷を終えて目を開けると、マティが持っていたスコップを焼け跡の土の部分に刺して立て、制服の汚れを払っているのが見えた。

 長い事一人で遺品を探していたのか、マティの制服は随分と黒く汚れている。

(他の二人は後から合流したのか、マティと比べると綺麗だった)

 あまりに汚れが目立っていた為に、優希がポケットからハンカチを取り出しマティに差し出せば、彼は丁重にそれを断り、一度進捗を遺族へ伝えに行って来るとその場を後にして行った。


「マティくん、まだ頑張るつもりかなぁ? これだけ派手に燃えたんだし、遺品なんて見つけるのは無理だと思うけど……」

「まあ、あいつもクソ真面目だからな。何か小せぇモン一つでも良いから見つけてやりてぇって、聞かねぇんだよ」


 レナードとシルヴィオの会話を聞きながら、火元となって完全に焼け落ちてしまった店舗の跡をぼんやりと眺めていれば、


「そう言やぁ、最近剣の稽古に身が入ってねぇってアルマンが言ってたぞ。何か悩み事でもあるのか、勇者様?」


 唐突にレナードに話を振られ、”勇者様”と言う言葉に過剰に反応した優希は、引きつる口元を無理矢理引き上げて笑顔を作り、疲れているだけで何でもありませんと答えた。

 訝し気に「そうか?」と聞き返すレナードに頷き、それからシルヴィオの方を見れば、何かを探るような視線が刺さり慌てて目を逸らす。

 わざとらしかっただろうかとシルヴィオの顔色を窺えば、特に気を悪くした様子もなく、いつもの笑顔を浮かべながら「困った事があればいつでも相談にのるよ」と肩を叩かれた。

(直後、リアンの爪の洗礼を受けたようだ)

 しかし、それに何と答えて良いのかわからない優希は、シルヴィオを威嚇し続けるリアンを理由にその場から逃げるように歩き出した。


 皆、心配して善意で声をかけてくれていると言うのに、それを素直に受け取れなくなってしまった事に肩を落とす。

 ”勇者”だから親切にしてくれているのか、それとも”生贄”だから親切にしてくれているのか、どちらが本当なのかが分からない。

 まるでこの世界に来る前の日常に……、あの頃の自分に戻ってしまったような気がして、優希はリアンを抱き締めると振り返る事もなく城へ向かって走り出した。


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― 新着の感想 ―
[一言] リアンが守護者になっている✨ 薄々、察しているのかもなぁ...
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