自分の傍にいる人の為だけでも良いから役に立ちたいと思うのは傲慢なんだろうか -Yuri-Ⅵ【無力】④
「あー……、なるほどねぇ。あの本をユウキくんに……」
「はい。少しでもユウキ様の慰みになればと思って……。最初の内は楽しそうに何が書いてあったのかを話してくれていたんですけど……。しばらくしたら、その内容には一切触れなくなってしまって……。やっぱり僕、何かまずいことをしてしまったんでしょうか……っ?」
そう言ったユーリにかける言葉を探しているのか、シルヴィオは顎に手を当てて黙り込んでしまった。
沈黙がやけに長く感じて、ユーリは僅かに震えるくちびるを噛む。
自分の浅はかな考えと判断で、とんでもないことをしてしまったのではないかと言う不安がユーリを襲い、後悔と罪悪感で滲む涙に視界が揺れ、目の前のシルヴィオの表情さえもまともにわからない。
……最悪、シルヴィオ団長から王へ報告が行って処罰されるかも知れない。
処罰される事は構わないとしても、ユウキに申し訳ないことをしてしまったと言う気持ちでいっぱいだった。
「まあ……、軽率にあの本をキミに渡した僕も悪かったよ。何が書いてあるかは僕らにはわからない訳だし……。それをユウキくんが読めるって言うのなら、僕も間違いなく渡していただろうね。きっと、キミと同じ理由でさ」
「……怒らないんですか?」
てっきりよく考えて行動しろと言われると思っていたのに、かけられた言葉は予想もしなかったもので、思わずそう問えば、眉を下げて困ったように笑ったシルヴィオの手がユーリの頭を優しく撫でた。
「そんな事で怒れる立場じゃないよ。僕もキミと同罪だからね」
「シルヴィオ団長……!」
初めてこの書庫で会った時、シルヴィオの事を幻滅してばかりいたが、今ならば何故彼が第二騎士団の団長でいられるのかわかったような気がして、今後は彼の事をちゃんと敬おうと改めると、ユーリの中で砕け散っていた彼の像を元通りに直した。
「あの……、僕はこれから何をしたら良いんでしょうか」
「そうだなぁ……。これはあくまでも僕の推測だけど、ユウキくんは今、重大な何かを知って決断しなくちゃいけない状態にあるのかも知れないね。それを決めるのはユウキくん自身だし、聞いても答えてくれないのなら、無理に聞き出さないで見守ってあげるのが良いんじゃないかな」
「そう、ですよね……」
また何も出来ないのかと言う事実に落胆したユーリは、深い溜息を吐いて顔を伏せる。
……本当に、情けないなぁ。
滲んでいた涙がこぼれてユーリの服の袖を濡らして行く。
「大丈夫だよ。キミにだって出来る事はあるって言ったでしょ? だから、そんなに落ち込まないでよ」
そう囁いたシルヴィオの言葉は、ユーリの心を甘く優しく侵食して行くのだった。
【END】




