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【完結】異世界追想譚 - 万華鏡 -  作者: 姫嶋ヤシコ
第二部

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キミはまた、あの時みたいに笑ってくれるのかな -Silvio-Ⅴ【齟齬】③

 その日の夜、シルヴィオは兵舎内の自室でアイリのノートとユウキが書いてくれたフリガナを照らし合わせていた。

 まだ起きている事を他の団員に悟られない様手元の小さな灯りを一つだけ残し、時折雲の隙間から差し込む頼りない月の光の助けも借りながら作業に没頭する。

 ひらがなの五十音順表も併せて見比べながら、ひとつひとつ言葉と意味をつなぎ合わせ、漸く理解に至る異世界の文章。

 読めなかった漢字の部分がユウキの助力によって埋まり、当初は虫食い状態だったそれも、ある程度スムーズに読めるようになっていた。


 そして、徐々に浮き彫りになって行くその文章の意味は、懸命に読み解いていたシルヴィオに大きな衝撃を与えたのである。




 —――私たち異世界の人間は、この世界に存在する邪神と契約をさせるための生贄だった。

 異世界人が持つ特別な魔力や生命力は邪神にとって強大なエネルギーになるらしい。

 更に邪神は、強い願望を持つ魂を好むとあった。

 その願いを叶える事をエサに、契約をもちかけるそうだ。

 この世界で"魔王"と呼ばれるものの正体は、邪神と契約を交わした異世界の人間……、■■■■(名前のようだが漢字が読めない)と言う青年だ。—――



 今まで”魔王”と認識していたものが、まさか邪神と契約を交わした異世界の人間だとは誰が思うだろうか。

 アイリのノートに書かれている事が本当ならば、”魔王”と”勇者”など最初から存在しなかったことになる。

 しかしそれよりも、シルヴィオはここに記されている話に齟齬がある事が気になって仕方がなかった。



 ”異世界の人間は、この世界に存在する邪神と契約をさせるための生贄”

 ”異世界人が持つ特別な魔力や生命力は邪神にとって強大なエネルギーになる”



 まるで、邪神は異世界人としか好んで契約をしないと言わんばかりの文章だが、シルヴィオにはそれを違うと断言できる。


 何故なら、シルヴィオは(望んだわけではないが)邪神と契約を交わした"こちら側の世界の人間"だからだ。


 手の平に文様が刻まれた時の事を記憶の底から掬い上げて見れば、あの孤児院の地下にあるおどろおどろしい祭壇上で死を覚悟した時、シルヴィオは最期に”彼女(セシリヤ)”の顔を見たいと強く願っていた事を思い出す。

 それが邪神との”契約の証”として叶えられたのだろう。

(魔王と呼ばれる存在にならずにうまく制御出来ているのは、きっと相性が良かったのかも知れない)

 ……と言うことは、邪神と契約する為に異世界人をわざわざ召喚する必要などなく、強い願いとそれなりの力を持つ人間であれば誰でも良いのだ。

 そうであるのなら、この世界に召喚された人間は、ただこちらの世界の勝手な都合に巻き込まれた被害者であると言える。


 歴代の勇者たちも、王も、すべて。


 そして、運悪く召喚された被害者の中の一人が邪神との契約に至り、後に"魔王"と呼ばれる存在になってしまったと言う訳だ。

 考えていたよりも真相は単純なものであったと、短い溜息を吐き出したシルヴィオはノートの続きへ視線を戻す。



 ―――王様は、彼を助けるために何度も召喚を行っているのだと思う。

 邪神を消滅させる為には、契約をしている人物を凌ぐ魔力と生命力を持つ人間を新たな生贄として差し出し、新たな契約を結びなおす直前のほんの一瞬の隙を突くしかない。

 そんなこと、普通に考えてほぼ不可能だ。

 それが失敗に終われば、身体を乗っ取られて新たな"魔王"と呼ばれる存在になってしまうかも知れない。

 冷たい事を言うようだけど、私に魔王となった人物を凌ぐ魔力と生命力が無かったことが幸いだった。―――



 そう書き記された文章に何度も目を通し、それから理解しようと頭の中で復唱する。



 ”邪神を消滅させる為には、契約をしている人物を凌ぐ魔力と生命力を持つ人間を新たな生贄として差し出す”



 つまり今回は、ユウキを生贄として差し出すつもりで王は召喚を行ったと言う事だ。

 王は魔王となった人間を救う為だけに、”勇者”と偽って条件を満たす異世界の人間を繰り返し召喚していたのだ。

 そう思えば、これまで魔王が封印に留まっていた理由も頷ける。

(歴代勇者達の持つ力では不足していたのだろう)

 魔力も生命力も歴代勇者達を陵駕しているユウキは、まさにうってつけの勇者(生贄)だ。

 王の残された寿命を考えれば、これを逃す手はない。

 魔王をこの世界から完全に葬り去るにはどうしてもユウキの力が必要で、歴代の勇者では成し遂げられなかった条件が彼には揃っている。



 しかし、果たしてこれで良いのだろうか。



 シルヴィオの頭に小さな疑問が過った。

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