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【完結】異世界追想譚 - 万華鏡 -  作者: 姫嶋ヤシコ
第二部

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嫉妬と羨望に塗れた感情に振り回される日常は、真っ平ごめんだ -Arman-Ⅴ【慮外】③

 朝日が昇り始める頃、一足先に部屋へ戻ろうとするアルマンを迷うことなく引き留めたのは他でもなくユウキの方で、接近禁止令が出ているのに何をやっているんだと内心焦る。

 それを知ってか知らずか引き留めた張本人はと言うと、これでもかと言うほど眩しい笑顔で、


「ありがとうございました。他の人にも教えてもらってるんですが、イマイチ理解できなくて困っていたんです。良いお手本でした!」


 と呑気にお礼を言うのだから、たまったものではない。

 剣を教えるつもりも見本になるつもりもなかったアルマンからして見れば、理解ができない行動である。


「勝手に見本にしてんじゃねーよ」

「はい、すみません!」


 悪態をついてもユウキの純粋な瞳が曇る事はなく、なんとも言えない気持ちになって背を向けそそくさとその場を立ち去ろうとすれば、「また一緒に練習してもらえませんか」と言う恐ろしい言葉が投げかけられた。



 ……普通、初対面であれだけ失礼な態度を取った相手にそれを言うか?



 何を考えているのか、全くわからない。

 異世界の人間は、思考回路もどこか自分達とは違うのだろうか。

 けれど、どことなく悪い気はしなかった。

(返事はしなかったけれど)





 また別の日の早朝、鍛錬場の隅っこで剣を振っているユウキの姿があり、アルマンの姿を見つけた彼は元気よく挨拶を済ませると、アルマンが剣を手に取り振り始めるのを期待の眼差しで見つめ待っていた。

 やり辛い事この上なかったが、一生懸命見様見真似で剣を振り、うまく行かないと頭を悩ませている姿は遠い昔の自分の姿と重なってしまう。


 剣を初めて与えられて懸命に振り、うまく行かない時には癇癪を起していた幼いあの頃。

 確か、父親が少しだけ手解きをしてくれたような覚えがある。

(本当に初歩的なものだったが)

 最低限、自分で自分を守る術を身につけろと言った父親の瞳はひどく悲しそうで、ただ頷いて必死に剣を振っていたあの頃の自分を見ているようだった。

 ろくな技術をもたない父親の剣筋を真似ていたせいで、とんでもない恥をかいたこともあったし、しなくても良い苦労もした。

(長年の悪い癖が抜けるまでは本当に苦労した)

 漸く剣筋が矯正されたと思えば、実践で使えるモノになるまで更に数年かかった。

 騎士団の副団長となった今でも、剣の稽古は欠かせない。

 それ程までに扱いが難しく、故に今まで剣とは無縁だった人間が手にした所で簡単に扱える訳がないのだ。

(口で説明したところで、結局は体感で覚えるしかない部分もあるのだから尚更だ)


 相変わらず振り上げが大きすぎて剣に振り回されているユウキに溜息を吐き、しぶしぶ彼の傍まで歩み寄ると、剣を握る男にしては少々小さな手を掴んだ。


「お前、振り上げが大きすぎてダメなんだよ。そもそも剣の握り方すらなってねぇし、姿勢も全っ然ダメだ」

「……は、はい!」


 口を出すつもりは無かったが、なんとなくこのまま放って置くのも気が引けた。


 だから仕方なく……、仕方なく声をかけたのだとアルマンは自分に何度も言い聞かせる。

 接近禁止令を破ってしまったが、わざわざそれを誰かに言う奴だとも思えない。

 だから仕方なく……、仕方なく教えてやっただけなのだ。


 正しい剣の握り方を理解し、振り上げの角度と力の抜き加減を教えただけなのに、馬鹿みたいに嬉しそうに笑ってお礼を言うユウキの顔を直視する事ができなかった。


「……アルマンさん、やっぱり親切ですね」

「無駄口はいいからそこで大人しく素振りでもしてろ! ちょろちょろ視界に入って来んな!」

「はい!」


 アルマンは、知らない。

 そんなやりとりを見守っていた人物がいた事も、後にその人物によって、ユウキに剣を教える師として推薦される事も。


【END】

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