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【完結】異世界追想譚 - 万華鏡 -  作者: 姫嶋ヤシコ
第二部

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確実に、彼は追い詰められていた -Joel- Ⅳ【目撃】③


 ……また、消える魔物。



 少しの間、魔物の消える様を眺めていたジョエルだったが、耳を劈くような悲鳴を聞きつけ我に返るとすぐにその場から走り出す。

 今は考えごとをしている場合ではないと頭を振って、人々を襲う魔物を斬り捨てると速やかに避難誘導をし、そうこうしている内に中央広場へ辿り着くと、その惨状を目にしたジョエルは思わず剣の柄を握る手に力を込めた。

 ここは建国祭のメイン会場であり、人々も多く集まっていた為に他のエリアよりも被害が大きく、魔物の数も大きさも段違いだ。

 視界の端に倒れた人を懸命に救助している医療団の青年の姿を捉え、それから空へ視線を移せば、すぐそこに大きな穴の開いた結界が見える。

 魔物はそこから文字通り湧き出るように絶え間なく侵入しており、最早数える気にもならない程だ。

 ここは第一に結界の穴を塞ぐべきだと襲って来る魔物に応戦していれば、少し離れた場所にアルマンとレナードの姿を捉える。


「レナード! 魔術団に連絡は?」

「速攻で入れたに決まってんだろォが! 状況判断できねェで団長が務まるかよッ! 足止めさえ食らってなければ(じき)に来るだろうよッ!」


 そうレナードが声を上げると同時に、彼の体躯に合わせて誂えた大剣を大きく薙ぎ払って魔物を数体まとめて斬ると、群れの中へ単身で突っ込んで行く。

 一見無謀とも思えるこの戦い方は、傭兵時代のレナードが培った経験上最もやりやすい方法なのだろう。

(周囲が魔物だらけになる為、身体と動きが大きいレナードにとっては都合が良いらしい)

 血の気の多い事だと呆れつつ、次々と襲い掛かって来る魔物を嬉々として斬り払って行くレナードの姿を横目で眺めた。

(時折レナードが取りこぼした魔物をアルマンが討ち取っていて、二人の息は思いの外合っているようだ)

 避難場所へ人々を誘導しながら魔物を斬り捨てていれば、視界の端に緩慢な動作で空を飛んでいる魔物の姿が飛び込んで来る。

 ゆっくりと羽根を羽ばたかせ、一直線に飛びながらいたずらに炎を吐く姿が異様で気になり、魔物の視線の先を辿って見ると少年が一人、その魔物を振り返りながら走っているのが見えた。


 距離がある上に火の手が上がっていた為ハッキリとその姿を捉える事は出来なかったが、あの姿は先程会ったばかりの"勇者"ではないだろうか。


 魔物の口から吐き出された炎を避けながら、時折右手で(くう)を切るような動作を繰り返している所を見ると、魔術で抵抗しようと試みているのかも知れない。

 けれど、セシリヤから聞いていた通り、彼の魔術は発動する気配を見せず、それでも諦める事なく何度も何度も(くう)を切り、発動しない度に次々と術式を変えて描いていた。

 そんな彼の背後に迫っているのは、退路を塞ぐ壁だ。


 確実に、彼は追い詰められていた。


 勇者と魔物の動向を窺いながらも、襲って来る魔物の数が多すぎてすぐに駆け付ける事ができず、レナードやアルマンの方を見てもジョエルと同様に手一杯だ。

(しかも彼らは追い詰められている勇者に気づいていないようだ)

 しかし、あのまま放っておく訳には行かないと、斬り捨てた魔物を最後にジョエルは勇者のいる方へと走り出したが、既に攻撃態勢に入った魔物と、万策尽きたのか両膝を地につけ絶望の色をにじませている彼の間合いに入るには、距離がありすぎる。



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