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【完結】異世界追想譚 - 万華鏡 -  作者: 姫嶋ヤシコ
第二部

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彼女が嘘をつくのは、彼女自身に対してだけだ-Elaine- 【期待】②

「大分慣れて来たみたいじゃない」


 スタートからエレインと並走しているユウキに「余裕ね」と声をかければ、彼は「まだまだ、全然です」と前を向いたまま答える。

 毎日午前中は治療魔術やその他の魔術、言語の勉強などに時間を使い、午後からは基礎体力をつける鍛錬に時間を当てていると言うユウキだったが、割とハードスケジュールの中でも疲れを見せない所を見ると、やはり彼が若いからなのだろう。


 初めて見たのは今から三週間程前、第六騎士団がユウキの鍛錬を一緒にしていた時だ。


 あの時は走り込みですぐバテてしまい、筋力をつけるための腹筋や腕立て伏せではかなり苦戦していたようだが、流石に三週間もあれば少しずつ慣れたのか、持久力もつき始めていた。

 その証拠に、走るペースはエレインと同じ速さでも何ら問題無いようで、その順応の早さには舌を巻いた程だ。

 運動はあまり得意ではないと言っていたようだが、元々運動神経は悪くなく、体力もあったのだろう。

 ただ、元の世界にいた時はそれを発揮する場面も無かった為に、本人も気が付かなかったのかも知れない。

 体つきもこの三週間で少しずつ筋力がついて来たのか、しっかりとして来た気がする。

(勿論、セシリヤやマルグレットの食事のサポートもあるのだろうけれど)

 この分ならば、そろそろ木製の剣を持って素振りを始めても良さそうだ。

 とは言え、重さは一番軽いモノから始めた方が良いだろう。

 同じ鍛錬場でラディムの指導の下、剣の練習をしている騎士達を横目に見ながら、そう考えていた時だった。


「あの……、エレインさん。最近、城下に住まう方たちから頻繁に城へ贈り物が届けられているみたいですけど……、何かあるんですか?」


 ユウキの素朴な疑問に心当たりがあったエレインは、もうそんな時期かと呟いて走り込みを終了させる。

 それに続いてユウキも走る事を止めると、タオルで汗を拭いながらエレインの言葉を待った。


「もうすぐ建国祭があるのよ。まあ、今年は王の体調が優れないから盛大にはお祝い出来ないだろうけどね」


 毎年この時期になると行われる建国祭は、城下でも盛大に祝われ、城の一部も国民へ解放されている。

 けれど、今年は王も臥せっている為に国民の前に姿を現すことさえ難しい状況で、城の解放も望めないだろう。

 魔王がいつ復活するかも知れない時にそんな祭事をしている場合ではないが、毎年国民が楽しみにしている行事である為に自粛を要請することも気が引けてしまう。

(王も、贈られて来る品を無下にすることは出来ないと受け入れているようだ)

 故に、今年は国民の意思に任せると言う方針なのだが、結局は治安維持の為に騎士団が城下へ見廻りに出なければならなくなり、変わらず例年通りと言う訳だ。

 エレインとしては、城下の見廻りがてら露店を見て回るのも悪くないと歓迎しているのだが、ラディムの監視が付くに決まっている。

 建国祭の時くらい肩の力を抜けばいいのにと愚痴るエレインに、ユウキは困ったような笑顔を浮かべて頷き、次は腹筋からですよねと確認を取って作業に移った。


「建国祭の時は、他国からも行商が来たりするから、色々な珍しいモノが見られるのよね」

「珍しいもの、……ですか?」

「この辺りじゃ見かけない素材の布地やアクセサリーだったり、花や工芸品も見られるわよ。後は変わった食べ物やお酒も……って、アンタは子供だからダメね」


 残念でしたとユウキの足を押さえながら冗談交じりで言えば、彼には興味深い話だったのか反応は上々だ。


「建国祭が始まったら行って見れば良いんじゃない? この国の見識を深めるって体で、誰か誘ってさ。たまには息抜きだって必要よ? いつも部屋に籠って魔術の勉強か鍛錬ばっかりしてるんだから、バチは当たらないって」

「……それが……、息抜きしてる時間もあまりなくて……」


 先程まで楽しそうに話をしていたユウキの顔が暗くなった事に、エレインが何故と首を傾げると、彼は小さな声で魔術が発動しないままなのだと打ち明ける。

 治療魔術は疎か、他の魔術も習い始めたが、全く反応を示さないと言うのだ。

 魔術の適性や魔力がないのかと訊ねたが、イヴォンネにはあると言われている為に間違いはないと言う答えが返って来た。

 魔力があって適正もあるとなれば、発動しないわけがないのだが、一体彼に何の問題があると言うのだろう。

 少しの間考えたエレインだったが、原因がわかるはずもなく、すぐに考える事を放棄した。


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