酷く歪んだ輝きを魅せた気がした -Ceciliya- Ⅲ【心願】④
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「いたたたた……、身体が……」
「お疲れ様でした、ユウキ様」
その日の晩、全身の筋肉が痛いと訴えるユウキに苦笑しながらお茶を入れたセシリヤは、ティーカップをそっと差し出した。
疲労回復に効果があるお茶であることを説明すると、ユウキが恐る恐るカップに口をつけ、その直後、顔を顰めて舌を出す。
「苦いっ……」
「良薬は口に苦しと言う言葉は、ユウキ様の世界でもよく使われている言葉だとお聞きした事がありますが、まさにそれですね」
苦みと渋みがあるのは難点だが効果はマルグレットのお墨付きであると付け足せば、ユウキは意を決したかのようにお茶を一気に飲み干し、セシリヤは空になったティーカップを受け取ると、早めに休むようにと声掛けをしてドアノブに手をかけた。
「あ……、あの、セシリヤさん……!」
苦さに悶絶していたユウキに呼び止められて振り返ると、彼は座っていた椅子から立ち上がり姿勢を正し、
「僕に、"誰も教えてくれない事"を教えてくれて、ありがとうございました」
そう言って頭を下げる。
別に、お礼を言われるような事を教えた覚えはなく(むしろ迷わせるような事を言ったはずだ)、礼には及ばないと返せば、
「誰も教えてくれなかったら、僕はきっと深く考えることも無く剣を取っていたかも知れません。それこそ、カッコいいからとか憧れるとか……、そんな理由で」
命のやりとりがそこにあることさえ深く考える事も無かったかも知れないと続けたユウキの顔を見ると、どこか吹っ切れたような顔をしていた。
もう彼の中には、あの時程の迷いはないのだろう。
彼は確実に、一歩ずつ、前へ進んでいる。
「結局、答えは出せていませんけど……。でも、それを知ったからこそ真剣に悩んで、自分の中で責任を持って、これだと思った答えを選ぼうと思います」
相変わらず真っ直ぐに向けられる瞳は驚く程輝きに満ちていて、ユウキなりに腹を括って決めた事なのだろうと受け止めた。
もしも、それが彼の選んだ答えであり道であると言うのなら……、
「私は、陰ながらユウキ様を支えるだけです」
そう微笑みかけると、ユウキは気恥ずかしそうな笑顔を見せ、一瞬、それがハルマと重なって見つめてしまう。
そんな笑い方をする事もあったなと、脳裏を過る面影に締め付けられる胸の痛みを押しつぶし、今度こそドアを押し開く。
出がけに「これからも、よろしくお願いします」と言う声が聞こえ、応えるように頷くと、ドアが閉まる直前に深く頭を下げる再びユウキの姿が見えた。
完全に閉まったドアから三、四歩進んだ所で足を止めると、窓から見える月を眺めて小さな溜息を吐き、先程から痛みを訴えている胸の辺りに手を添える。
最近のユウキを見ていると、どことなくその真っすぐさが出会った頃のハルマと似ているような気がして、見ていると胸が苦しくなるのだ。
(勿論、ハルマに対しての罪悪感もあるのだが)
だからこそ、本当はこんな世界の面倒ごとには巻き込みたくなかった。
"勇者"と言う肩書を捨てて、無理にでも元の世界に戻って欲しかった。
この世界の事実が酷く歪んでいることに気が付いた時、ユウキは何をどう思うのか、不安だったのだ。
……どうか、ユウキ様の選択が、ユウキ様自身を苦しめることの無い様に。
窓に映る月にそっと祈りを捧げると、それは酷く歪んだ輝きを魅せた気がした。
【END】
俺
ガ
、
絶
対
ニ
守
ル
カ
ラ
ナ
セ
シ
リ
ヤ
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