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【完結】異世界追想譚 - 万華鏡 -  作者: 姫嶋ヤシコ
第二部

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それは静かに、日常へ迫っていた。-Yvonne-Ⅱ【不安】③


 翌朝、結界の修復に行っていた副団長のロータルから連絡があり、思っていたよりも早く修復作業が終わったのだろうかと前向きに捉えていたが、その結果が想定していたよりも良くないものであった事に、イヴォンネは動揺を隠せなかった。


 結界の弱まっている数か所で修復不可能となっている所があり、しかもその原因がわからないと言うのだ。


 この報告を受けたイヴォンネはすぐに現地へ足を運び、同じように修復を試みたが、何か見えない"力"によって阻害されてしまう。

 原因を慎重に探って見たものの、やはり特定することが出来ず、その対処としてやむなく結界の範囲を狭める決断を下した。


 結界の層が他より薄くなっているのであれば、結界の範囲を狭め、その狭めた分の魔力を弱まっている個所に上乗せすると言う単純なものだったが、その対象が数か所に及ぶ為に、狭める範囲がより多くなってしまうのが難点だ。

 結界の範囲が狭まれば、その分外部からの魔物の侵攻が懸念される。

 当然、民の不安は強くなるだろう。

 唯一救われる点としては、民の王への絶大な信頼と忠誠心だ。

 これらがある事によって、例え結界の範囲が狭まり一部の田畑などが使用できなくなったとしても、暴動の心配はない。

 彼らは不安を抱えながらも、この状況を耐え乗り越えてくれるはずだ。


「ロータル、結界の範囲を狭めて、その分の魔力を弱まっている個所に集めてちょうだい」

「わかりました。王への報告はどう致しますか?」


 出来ればすぐに王に許可を貰い、結界の範囲が狭まることを民に報せ、遅くても陽が落ちる前までには修復作業を終わらせなければならない。

 修復作業に時間がかかってしまえば、弱った個所の結界が破壊され、外部からの魔物の侵入を許してしまい兼ねないからだ。

(更に言うと、夜間に活動する魔物はより強力で厄介なのだ)


「転送魔具で城に残っている団員に、急いで王へ報告するよう指示を出すから問題ないわ。すぐに作業に移って」


 そう答えて転送魔具で手早く連絡を済ませると、修復が終わったらすぐに他の場所の応援にまわるようロータルに言いつけて、イヴォンネは次の地点へと向かって馬を走らせた。

 手にした地図を見ながら修復不可能と言われた場所に順番に印をつけ、それからふと、その違和感に眉を顰める。

 

 印をつけた場所を指先で順番になぞると、やや歪ではあるが何か文様のようなものが浮き上がってくるのだ。


 けれど、その文様が何であるのかイヴォンネには一切の見覚えなどない為に、イマイチ自信を持って文様だとも言い切れない。

 しかし、偶然の産物と言い切るには不確定要素が多すぎる。



 ……調べて見る価値があるかどうかは、わからないけれど……。



 そう思い立ち、地図の端にその文様のようなものを描き写して千切ると、ポケットに仕舞い込んだ。

 忙しい合間にどこまで調べられるかはわからないが、何となく、このまま気づかないふりをして放って置くのは良くない気がした。

 もしかしたら、何か意味があるのかも知れないし、意味は無いのかも知れない。

 仮に何の意味もなければ、時間の無駄ではあっても、それはそれとして安心できるだろう。

 とにかく今は、少しでも不安要素を取り除いておきたい。


「イヴォンネ団長!」


 ふと名前を呼ばれて顔を上げれば、次の修復地点に辿り着いていたのか団員が手を振って「ここです」と叫んでいた。

 空を見上げれば確かに結界の層が薄くなっていて、先程の地点と同様に修復しようと魔力を送り込む。

 しかし、やはり同じように見えない"力"が阻害して来るのだ。

 今度こそその"力"がどこから発生しているのか特定しようと試みるが、発生源を見つけるどころか、今度は途中で跡形もなく気配が消えて探れなくなってしまった。

 その隙を見て再度結界の修復に取り掛かるも、暫くするとまた現れて阻害してくる"それ"は、まるでこちらの行動が見えていると言わんばかりだ。

 やはり結界の範囲を狭め、魔力の濃度を上げてその"力"を弾くしか修復する方法はないと悟ったイヴォンネは、団員に処置の方法を手早く説明すると、再び次の地域へと向かった。


 全地点へ回りきる前に王の許可が出る事を祈りながら馬を走らせていれば、ふと、何かが後ろから追いかけて来るような気配を感じて思わず振り返る。

 けれど、振り返った先には魔物の姿も無く、平穏な草原が広がっているだけだった。

 しかし、決して気のせいではないとイヴォンネは確信している。


 この気配は先日、セシリヤの肩に触れた時に感じた()()()()と全く同じものだったからだ。


 記憶の片隅に残る彼女に刻まれた"呪い"が脳裏を過り、それと同時に妙な胸騒ぎを覚えたイヴォンネは馬を急がせる。


 確実に、異変が起こり始めている。


 そして、それは静かに、日常へ迫っていた。


【END】

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