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【完結】異世界追想譚 - 万華鏡 -  作者: 姫嶋ヤシコ
第二部

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気の利いたセリフの一つくらい言えたのだろうか -Dino-Ⅴ【苦悩】②


 ディーノの目の前で書類と睨み合い頭を抱えているのは、第三騎士団長であるジョエルだ。

 四~五日前に届いたその書類は第六騎士団から回って来たもので、勇者に魔術や剣技、文字の読み書きなど教える協力者を募ると言う内容だった。

 返信期限は一週間とあり、そろそろ結論を出さなければならない時期である為にどうすべきか悩んでいるようだ。

 ディーノとしてもジョエルとしても勇者の為であれば是非にと答えを出したい所ではあったが、団の人員不足もあって一人でも欠けてしまうと、国境付近の砦に駐在している騎士と城に駐在している騎士の交代が厳しくなってしまう。

 特に強制はしないともあったが、実際に魔王と戦ったことのあるジョエルだからこそ、協力しないと言う答えを出す訳にはいかないのかも知れない。


「団長、俺が行きましょうか? 執務の合間を縫って時間を作る事も可能ですし、勿論、稽古の時間に一緒に指導することも可能です。他の団員に余計な負担をかけて任務に支障が出ても困りますから……」

「いや……、それではディーノにばかり負担がかかり過ぎてしまう。流石にそれは……」

「問題ありません。勇者様に協力できるのは光栄な事でもありますから、是非」


 ディーノの言葉にやや間を開けたジョエルは申し訳なさそうに了承すると、持っていた書類にサインをしてディーノに手渡した。

 協力者の欄にはしっかりとディーノの名前が書かれ、その横にはジョエルの承認のサインがある。

 これで一応はジョエルの悩みの種は解決したはずだと安堵し、第六騎士団へ提出しに行ってきますとドアに手をかけた直後、


「ディーノ」


 急に呼び止められて振り返れば、座っていた椅子から立ち上がって何か言いたげにしているジョエルが見え、


「どうかしましたか、団長」

「……ああ、いや……。その……、いつも、ディーノにばかり苦労をかけてすまない」

「いいえ、お互い様です。団長の役に立てているのなら、本望です」


 そう答えて軽く一礼すると、部屋を後にした。

 ドアが閉まった事を確認し、手元の書類を改めて眺め、昨日初めて医療棟で見た勇者の顔を思い出す。


 まだ、どこか幼さの残る少年だった。


 勇者の無事を確認し安堵したセシリヤへ全力で謝罪していた彼には、とても純粋で素直な印象がある。

(アルマンとは大違いだと思った事は、ここだけの秘密だ)


 これからこの世界の様々なことを教えるのが、怖くなるくらいに。


 彼の両手は驚く程に綺麗で、恐らく、剣を持って戦うなどと言う世界とは程遠い場所にいたのだろう事が窺えた。

 果たしてそんな少年に、この世界の事情が背負いきれるのだろうか。


 そこまで考えて頭を振ると、ディーノは止まっていた足を動かし目的地である第六騎士団兵舎へと歩き始める。

 まだ顔を合わせた程度で勇者の全てを知った気になってはいけないと、自戒しながら。

 勇者のひととなりを知り、本当に勇者としてふさわしいかどうかを見極めるのは、訓練が始まってからでも遅くないはずだ。

(なんなら、実践の一つでもクリアした後だって良い)


 すれ違いながら挨拶をする団員に応えながら廊下を曲がった所でふと視線を上げれば、少し先の方にアルマンの姿が見え、勇者との騒動後初めて見たその姿に安心するも、手すりに肘をかけてぼんやりと一点を見つめる元気の無さが心配になる。

 アルマンが何を見ているのか気になったディーノがその視線の先を辿れば、イヴォンネと話をしているセシリヤ、それからその隣には勇者の姿があった。

 珍しい組み合わせだなと眺めつつアルマンに声をかければ、覇気のない顔をしたまま不愛想な挨拶が返って来る。


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