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【完結】異世界追想譚 - 万華鏡 -  作者: 姫嶋ヤシコ
第二部

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今まで以上に忌々しいと思えてならなかった -Silvio-Ⅳ【嫉妬】④

 食堂を出ると、街は先程よりも人が多く賑わっていた。

 この広場は行商が多く、至る所に簡易の店が立ち並び買い物客が絶えず行き来している。

 同時に子供たちの遊び場でもある為に、結構な混雑ぶりだ。

 ユウキを見ると、この光景が珍しいのか興味深そうに眺めていた。


「ちょっと見て行こうか。せっかく来たんだし気分転換にさ」


 特に行商はめずらしい物を扱っている事も多く、きっとユウキの興味を惹くだろうと、シルヴィオは人波をうまく避けて歩き出した。

 少し先に進んで振り返れば、やや速足で後を追って来るユウキも、上手く人とぶつからないように避けながらついて来ている事に気がつき感心する。



 ……うん、動きは悪くなさそうだね。



 あれだけバランス感覚と空間認識能力が備わっているのなら、意外と剣技に向いているのかも知れない。(勿論、本人が望むかどうかは別としてだが)

 後は生死に対しての価値観だけをどうにかすれば、すべて解決できるのにと立ち止まって考えていれば、不意に花籠を持った小さな少女がユウキの前に飛び出し、見事にぶつかってしまった。

 流石にあの不意打ちは避けられなかったかとすぐに二人の下へ向かい、少女に手を貸そうとシルヴィオが手を差し出そうとした瞬間、それよりも早くユウキが少女に手を差し出して助け起こした。


「ご、ごめんね。怪我はしてない……?」

「……うん、だいじょうぶ。まえがよくみえてなかったから、わたしも、ごめんなさい」


 やや舌足らずな少女はそう言うと、辺りに散らばっている花を懸命に拾い集め、つられるようにユウキも花を拾い集めて花籠に戻す。

 けれど、恐らく売り物だったのだろう花の殆どは茎が折れ、花びらを散らしてしまっていて、とてもじゃないが商品としての価値はなさそうだった。

 どうしようと少女もユウキも困った顔をしている事に、噴き出しそうになるのを堪えたシルヴィオは、


「ねえ、この花籠の花、僕に売ってくれる?」

「……おはな、おとしちゃったから、ぜんぜんきれいじゃないよ?」

「僕にとってはそんなこと問題じゃないよ。愛らしい君が僕に売ってくれることに価値があるんだ。それじゃあダメ?」


 視線を合わせるように膝を地面につけてニッコリ笑いかけると、少女は頬を染めながら首を縦にふって花籠ごと差し出した。


「あのね……、おにいさんは、きしだんのひと なんでしょ? もしも ゆうしゃさまに あったら、そのはなを すこしでいいから わけてあげてほしいの」


 小首を傾げながらそう言った少女の言葉に何故と問いかければ、


「しらないばしょにきて、ゆうしゃさまだって こころぼそいかもしれないねって おかあさんがいってたの。だから、おはなをあげるの。おはなをみたら、げんきになれるから! わるい まおうをやっつけるために きてくれたんだから、すこしでも ゆうしゃさまのために なにかしてあげたいの」


 少し興奮気味に両手を握り締め、懸命に訴えかける姿に苦笑してしまう。


 その勇者様はすぐ傍にいるよとは言えないまま少女と約束を交わしてお金を手渡すと、彼女はありがとうございましたと律義に挨拶をして自分の店があるだろう方向へと走って行ってしまった。


「聞いた? 今の話」

「……はい」

「あのまま誰に脅かされる事もなく、真っすぐに育って欲しいよね。……そう思わない?」


 少女の走り去った方向を見ていたユウキに持っていた花籠を渡しながらそう言うと、彼は花籠の花を見つめたまま頷く。

 相変わらず口数が少なく何を考えているかはよくわからなかったが、その瞳を見る限り、ユウキの中で何かが変わった事だけは間違いなさそうだ。


 彷徨っていたユウキの視線は、今、しっかりと定まっていた。




 *




 城へ戻ったのは夕暮れ時で、ユウキを送り届けるとその足でまっすぐ執務室へ戻る。

 またアンジェロからお説教されるかも知れないと恐る恐る扉を開ければ、予想外にも彼の姿はなく、安心したようなもの寂しいような気持ちで自分の机に座ると、処理済みの書類と書置きが残されていた。



 ―――後は可否を決めるだけなので、今日中に処理してください!



 書置きの文字の乱れを見る限り、かなりお怒りのようだ。

 別に遊んでいた訳じゃないのになと呟き書類を投げ出し、何気なく窓の外を見れば見知った姿を捕らえ、嫌でも視線が釘付けになる。

 セシリヤとディーノが何かを話しながら医療棟へ向かって歩いていたからだ。

(ディーノは非番だったのか、いつもと違う服装と髪を降ろしていた為に一瞬誰だかわらかなかった)



 ……非番なのに、わざわざ会いに行くなんて随分とご執心だね。



 面白くないとばかりに溜息を吐き出してカーテンを引き、机に向き直り書類に手を付けるも、モヤモヤした気持ちは収まる事無く胸に留まり続けて作業の邪魔をする。


 嫉妬だなんてみっともないと嗤っていた側だったのに、まさか自分が嗤われる側に立たされるだなんて思いもしなった。


 作業に集中出来ずに机に突っ伏して、どうにもできない現状に歯噛みする。

 目の前にある書類を明日までに処理をしなければならないのに、全く手につかない。

 このままでは、明日のアンジェロの説教が確定してしまう。


「マズイ、重症だ……」


 制約に抵触している事を示すかのように手袋の下で疼く契約印が、今まで以上に忌々しいと思えてならなかった。


 【END】

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