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【完結】異世界追想譚 - 万華鏡 -  作者: 姫嶋ヤシコ
第二部

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誰かを失望させてしまわないだろうか -Yuki-【当惑】①

 何をされても言われても抵抗せずに我慢したのは、目の前に立ちはだかる誰かと戦うことが怖かったからだ。

 臆病と馬鹿にされても罵られても、戦わなくて済むならそれで良かった。

 お金を巻き上げられても、命まで取られたりするわけじゃない。

 陰口だって、聞こえないふりをすれば何でもない。

 教科書やノートに中傷する言葉が書かれても、目を閉じて見なければいい。


 これが、永遠に続くわけじゃない。


 おとなしく言う事さえ聞いていれば、多少嫌なことがあっても平穏だ。



 そうやって毎日をやり過ごしていたある日の朝、登校途中に偶然仔猫を虐めて嗤っている"彼ら"を見つけた。

 何も見なかった事にして通り過ぎようかとも思ったが、小さな仔猫の助けを求めているかのような鳴き声が心の奥底を何度もつつき、その疼くような痛みにとうとう我慢できなくなって無我夢中で渦中に飛び込んだ。

 一瞬、自分自身でも何をやっているのか理解出来ず、けれど目の前の仔猫をしっかり抱き上げると、一目散にその場から走り出した。

 虐めていた"彼ら"も呆気に取られていたが、すぐに状況を理解して後を追ってくる。


 元々運動は得意ではなかったし、彼らから逃げ切れる自信はない。

 すぐに捕まってしまうのがオチだ。

 初めて勇気を振り絞って立ち向かった結果がこれだなんて、笑い話にもならない。

 やはり余計なことに首を突っ込むものじゃないなと、少しだけ自分の行動に後悔する。

 だけど、どうしても放って置けなかった。

 せめて、この仔猫だけは安全な場所に逃がしてあげなければ。


 曲がり角を曲がり、母子連れとすれ違って……、暗転。


 目が覚めた時には知らない部屋に仔猫と共にいて、部屋を飾り立てる豪華な調度品に萎縮するばかりだった。


 一体これはどう言う状況なのか。


 ついさっきまで、虐められている仔猫を助けて逃げていたはずだ。

 走り続けていた足も限界で……、それから……、それから……。


 その先の記憶がさっぱり抜け落ちているかの様に思い出せず、この現状を理解しようとすればする程意味がわからないと混乱する頭を抱えていれば、不意に部屋のドアがノックされ、開かれたドアから人の好さそうな笑みを浮かべた老人と、その傍に控えるように付き従う獣にやや近い姿をした男が入って来た。


「お目覚めかな……。突然こんな所に呼び出し、驚かせてすまなかった」


 そう言って一息置くと、老人の顔が人の好さそうな笑顔から真面目な顔に切り替わり、


「お主は……、この世界に召喚された勇者じゃ。どうか、この世界を救う為に力を貸して欲しい」


 仰々しく告げられた言葉に全く意味が分からないと、更に頭が混乱する。

 そもそも自分に世界を救える力があるとは到底思えない。

 何かの間違いではないのかと口にしようと思ったが、力を貸して欲しいと懇願する老人を無下にすることも出来ず反射的に頷いてしまい、この世界についての話を長々と聞かされた。


 魔王、魔物、剣に魔術。


 流行りの小説や漫画でしか聞いたことの無かった単語が出てきて、にわかには信じ難かった。

 けれど、説明している老人の顔を見る限り、どうやら悪い冗談では無いらしい。

 魔物や魔王と戦うことが勇者の使命であると告げられた時、返事をする事も忘れ、自分には何が出来るのかと無い頭で深く考えた。




【34】


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