決して臆病と評して良い人物ではない -Yuri-Ⅳ【確信】①
先日、四代目勇者となる者が召喚された。
お披露目は、勇者が落ち着くまで少し先になると言う話だけを聞かされていて、国中の人間は皆期待し、ユーリもまた召喚された勇者が一体どんな人物なのだろうかと、連日そわそわしながら仕事をこなしている一人だった。
歴代の勇者の話は、今までに本でいくつも読んで来た。
初代勇者でありロガールの王・フシャオイをはじめとし、勇猛果敢な二代目勇者・ハインリヒ・デ・ボック、聖女と謳われた三代目勇者・トダテ アイリ。
何れも、数多くの伝説を残している。
今回の勇者もまた、彼らのような伝説を残し、平和を取り戻した暁には元の世界へ帰って行くのだろう。
新たに勇者が現れたこの時代に生まれたことに感謝しつつ、今日も一日仕事を頑張るぞと気合いを入れて自室のドアを開けた直後、何かが勢いよくぶつかったのか鈍い衝撃が走り、すぐに部屋の外へ出て、開いたドアの反対側を覗き込んだ。
「す、すみませんっ……、だ……っ、大丈夫ですか?」
頭を強く打ったのか、完全に意識を飛ばしているその人は、この世界では見た事のない服を身に着けていて、その傍らでは小さな子猫が心配するかのように身体を摺り寄せていた。
もしかすると、この人こそが今回召喚されたと言う勇者なのではと顔面蒼白になったユーリに、更に追い打ちをかけるかの如くアンヘルがこちらに向かってくるのが見える。
仮に、この気絶している人物が本当に勇者だったとしたら、自分はとんでもないことをしでかしたのではないだろうか。
おろおろと辺りを見回し、どうしようと挙動不審になっていると、
「ユーリ・クロスリー!」
「は、はいいいいい、すみませんっ……!」
「その方を貴方の部屋へ運びます……! 部屋に入ったらすぐにドアを閉めて下さい!」
「え、あ……、え? は、はいっ」
倒れている人物と子猫を素早く抱えたアンヘルは、ユーリの部屋に滑り込むように入るとベッドへ抱えた人物を寝かせて一息ついた。
一体この状況は何なのか……。
訳も解らず言われた通りにドアを閉めると、直後に数人の話し声が部屋の前を通り過ぎて行った。
どうやら倒れた人物を人目に晒したくないのか、話し声が通りすぎ何も聞こえなくなったことを確認したアンヘルは、深い溜息を吐き出して頭を抱え込んだ。
王の側近である彼が、こんなに頭を抱え込むなど余程の理由があるのだろう。
しかし、聞いても良いのかどうか判断がつかない為に、ユーリは黙って彼の動向を見守るしかない。
しばしの沈黙が部屋を支配する。
そして、漸く顔を上げたアンヘルから、
「セシリヤと……、マルグレット団長も呼んで来て下さい。相談したいことがあります。見てしまった貴方も、一緒にここへ戻って来て下さい。……必ずですよ」
そう念を押されると、ユーリはこくこくと人形のように頷いて自室から飛び出したのだった。
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