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【完結】異世界追想譚 - 万華鏡 -  作者: 姫嶋ヤシコ
第一部

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切に願い、強く抱き締めた -Joel- Ⅲ【切望】①

 最近、ディーノの様子がおかしい。


 空いた時間の隙間を埋めるように書類整理や訓練、巡回を詰め込んでいて、ここ暫く彼がゆっくりと休んでいる姿を見ていない。

 何か悩んでいるのだろうかと直接聞いて見る事も考えたが、あまり触れられて欲しくないような話だとディーノも答えにくいかも知れないと、見守っている現状だ。

 たった今も書類整理がひと段落した彼は、すぐに巡回へと向かって行ってしまった。

 何となく避けられているような気もしないが、こればかりは確かめようがない。

 椅子の背もたれに寄りかかり溜息を吐くと、ディーノと入れ違うように執務室へオリヴェルが入って来る。

 お疲れさまですと挨拶をした彼は、一枚の書類を提出しながら、


「ジョエル団長、この書類、ディーノ副団長に団長へ渡すようにとお願いしておいたんですけど……、渡ってなかったみたいです」

「ありがとう。珍しいね、ディーノが頼まれた事を忘れるなんて。いつ頃頼んでいたか覚えているかい?」


 特に急ぐものではなかった為、忙しさで忘れてしまったのだろうと書類に目を向けていれば、


「えーと……、確か団長が医療棟に行った日です。定時頃に副団長が執務室に戻って来たので、その時に。すぐに行ってくると言ってたんですが……」


 すれ違ってそのまま忘れたんでしょうかと続けるオリヴェルの言葉に、ひとつだけ心当たりがあった。



 あの薄く開けられた病室のドア。



 恐らく、ディーノはそこにいたのだろう。

 気配はすぐになくなった為に特に気にしていなかったが、もしもそうだとするのなら、随分と気を緩めた姿を見せてしまった。

 もしかすると、あらぬ誤解を招いてしまった可能性もある。

 いつもの様にセシリヤを腕に抱いていたが、彼女が身体を寄せて来るのは不安の表れであって、特に深い意味はない。

 不安が落ち着くまでそうしている事で、いつも通りのセシリヤでいられるのだ。


 ずっと昔から、そうだった。


 子供が肉親に甘えるようなものだと捉えているが、傍から見ればそうは見えないのだろう。

 ディーノの態度を見ている限り、それらが何かしらの影響を与えてしまったのかも知れない。

 職務を切り上げて何をやっているのだと幻滅されてしまったのか、はたまた、セシリヤに対してディーノが特別な感情を抱いているのか……。

 何れにしても、その誤解をどう解けば良いのか。

 セシリヤとは恋人ではなく家族のようなものだと正直に言えば、ディーノは納得してくれるだろうか。

 しかし、言い訳がましいと余計に拗れることも考えられる。


 あれこれと、あの時の事を思い返しながらオリヴェルに礼を言うと、彼は一礼して部屋を出て行った。



「……説明するのが、難しいな」



 これはますますディーノに話を聞きづらくなったと、片手で僅かに痛む頭を押さえた。




【29】


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