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【完結】異世界追想譚 - 万華鏡 -  作者: 姫嶋ヤシコ
第一部

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今更、訂正のしようもないくらいに -Dino-Ⅳ【距離】②

 花見に集まったのはほぼディーノの予測していた通りの顔ぶれで、けれど予想外だったのが、ラディムとシルヴィオ、それからセシリヤの三人だった。


 場所が場所だけにレオンは居ても不自然ではないのだけれど、ラディムは前回の花見は頑なに拒んでいたはずだ。

(その時の理由はエレインの酒乱加減に付き合ってられないと言う、まともなものだった)

 何があったかは解らないけれど、やはりどこか不機嫌そうな顔をしたまま茶を啜っているあたり、彼もエレインとクレアに上手く言い包められてこの場に居合わせているのかも知れない。

 シルヴィオはアンジェロに気まぐれでくっついて来たとして、まさかセシリヤまでもがこの場に居るとは思わなかった。

 彼女も、ラディムと同じく前回の花見の時には誘いを丁重に断っていた。

(最終的にはエレインが強硬手段を使って無理矢理連れて来ていたが)

 だからまさか今回の花見にも参加しているとは思っても見ない事で、ディーノは何となく一方的に気まずさを感じていた。

 セシリヤが少し離れた所で桜に見入っているのが幸いだと、心の中で安堵の溜息を吐き、グラスを傾ける。


「ディーノ先輩、どうぞ」

「悪いな、アンジェロ」


 空いたグラスにすかさずアンジェロがボトルを傾け酒を注ぐ様をぼんやりと眺めていれば、ふと視界の端に人影が動くのを捉えて目を向ける。

 闇に紛れるかのような黒い服は、第二騎士団を象徴する色で、この場にいるのは二人だけ。

 すぐ隣にアンジェロがいるのだから、あれは間違いなくシルヴィオだ。

 どこへ行くのかと目で追いながら、ディーノは平静を装ってアンジェロやアルマンの話に耳を傾ける。

 シルヴィオはセシリヤの隣で足を止めると、そこで腰を下ろし彼女の手にグラスを渡して酒を注いでいた。

 少し距離があいている為に、はっきりと会話は聞こえない。

 困惑しながらも素直にシルヴィオに勧められた酒を飲むセシリヤの姿を見て、以前はそこに自分がいたのにと心の片隅でじわりと吹き出る嫉妬心に、思わずグラスを持つ手に力が入る。

 初めから彼女の隣に行けば済んだ話なのだが、それすらも出来ずにここで一人苛立っているのだから、救いようもないくらいに愚かしいと小さな自嘲がこぼれた。

 グラスの中の酒に映る顔は、ディーノの心の内を表しているかの様に、ひどく歪んでいる。


「団長、飲み過ぎないと良いんですけど……」


 アンジェロの呟きに視線を戻せば、先程までセシリヤに酒を勧めていたはずのシルヴィオが、今度は彼女の膝に頭を預けているのが見えた。

 アンジェロから見れば、シルヴィオなりの無礼講だと思えるのだろうが、今のディーノにとっては受け入れがたい行為だ。

 セシリヤの手がシルヴィオの細い髪を梳き、何かを真剣に話している彼に沸々と感情が湧き上がる。


 男の嫉妬など、この上なくみっともないと思っていたのに、彼等の動向に目が離せないでいる。


 かと言って、二人の間に割り込む事すらできないまま、ディーノは視線だけを何度か行き来させながら、焼け付く胸の痛みを誤魔化すように酒を煽った。


「先輩も、あんまり無茶な飲み方はしないで下さいね」


 アンジェロの言葉にディーノが顔を上げると、彼は悩み事でもあるんですかと苦笑する。

 あまり顔には出さないようにしていたつもりではあったけれど、アンジェロの様に繊細な感性を持っている人間には雰囲気で伝わっていたようだ。

 いつの間にかボトルからティーポットとティーカップに持ち替えていたアンジェロは、如何ですかとそれらを差し出したが、ディーノはそれを断ると小さな溜息を吐いて、


「俺に勧めるより、お前の団長に飲ませてやる方が賢明だ」

「え?」


 アンジェロの疑問符に答える事無く立ち上がると、ディーノはただ一点を見つめて足を踏み出した。



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