もう一人の僕
ポツポツ。あぁまたあの音がする。大切な人を失ったあの音が。
「……ん。ここは?」
意識が戻るや否や目の前には木々が立ち並んでいた。……いわば森だ。
まさか本当に森に飛ばされるとは。まぁいいか、さっそく毒を飲むとしよう。
右ポケットに入れた小瓶を取り出し蓋を開ける。小瓶からは甘い香りが漂う。
中の液体を飲もうと小瓶を口に近づける。ピタッ。手が止まる。
お前は本当にそれでいいのか?
……誰だよ。
そうやってまた逃げるのか?何もできず周りに馬鹿にされたままで悔しくないのか?
悔しいよ。でも、どうせ頑張ったて誰も認めてはくれないんだ。
なら、お前はこの世界に来て何か努力はしたか?
努力しようにもすぐに捨てられたじゃないか。
なら今からすればいい。生きて努力すればいい。
……確かに。この世界なら、努力すれば誰かに認めてもらえるかもしれない。僕を必要としてくれる人がいるかもしれない。
『強く、生きろよ』
あの兵士が言った言葉を思い出す。
「そうだな、もう少し頑張ってみるか」
手に持った小瓶をポケットにしまい溜息をつく。
「はぁ、何か食えるもんでも探すか」
ゆっくりと立ち上がり前へ進む。
心なしかいつもより足取りが軽かった。