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第六話

 そこから莉璃りりの新たな戦いが始まった。


 ――いつまでも母さまの衣裳に縛られていてはいけなかったんだわ。


 考えてみれば初めから、目指す場所を間違えていたのだ。

 何より重要なことは、花嫁それぞれに似合う衣裳を追求し、製作することだったのに。


 それなのに莉璃は、母の衣裳こそがすべての花嫁に似合うと信じ込み、自分の感性を完全に捨ててしまっていた。

 母の衣裳を再現することにやっきになり、周りが見えていなかったのだ。


 白影はくえいのおかげでそれに気づくことができた莉璃は、衣裳を大幅に修正することにした。ひと月前の図案提出時に捨てたもう一案――貴妃にきっと似合うはず、と考えた独創的な図案をもとに、くんだけでなく上衣の襟元も手直しすることにしたのだ。


 さらに莉璃には、もうひとつ決意したことがあった。


 ――あの花の印象を再現するわ。今度こそ忠実に。


 立華りっか村で見つけた金色に輝く花。

 それを主題とし、衣裳に工夫を凝らそうと考えたのだ。


 さっそく作業に取りかかった莉璃に、白影は言った。

「あの時……王の御前に皆が集まった時、生意気な口をきいて申し訳ございませんでした」

「いいえ、白影さまには感謝しておりますわ」


 彼がいなければ、莉璃はすべてをあきらめていた。

 白影のあの言葉こそが、莉璃の考えを大いに変えたのだ。


「ということは、怒っていらっしゃらないのですか?」

「もちろんですわ」

「でしたら婚約を破棄するなんてことは――」

「とくに考えておりませんが」

 ただし、わたくしの仕事を認めてくださるのなら、と、もう何度目かわからない文句を付け加える。


「白影さま、わたくし、命をかけてでも衣装を完成させますわ」

「そこまでされては困りますね」

「ですがあなたがくださった機会ですもの」

 絶対に無駄にはしない、と、莉璃は寝る間を惜しんで衣裳と向かい合った。


 まず型紙を作り直し、裙を体に沿うよう細身の形に修正した。

 生地には零真れいしんが刺してくれた刺繍の花が咲くが、その上に金色の花を模した立体的な造花を縫い付ける。

 実際に作ってみれば、造花を作ることは刺繍を刺すよりも簡単だった。

 金箔を塗った針金で花の形を作り、それに金の糸を這わせて花びらに見立てる。するとまるで、裾の上で黄金こがね色の花が咲き乱れているように見えるのだ。


 襟元の空き具合は広めにし、首元がよく見えるようにした。これならきっと、句劾くがいが作る頸鏈けいれん耳環じかんが映えるだろう。


 作業は昼夜を問わず、ほぼ睡眠をとることなく続けられた。

 その間、白影は夜ごと莉璃の作業部屋を訪ねて来た。

 そこで何をするわけでもない。会話もなければ、もちろんふれあうこともない。

 けれどそれでも彼は、莉璃の側に黙って居続けた。

 作業部屋の片隅に座り、ときにはうたた寝をしながら、ときには自身も仕事をしながら、莉璃の努力を見守り続けてくれたのだ。


 そして七日後。

 いよいよ貴妃の花嫁衣裳は完成した。

 ほう家、りゅう家、かい家の仕立屋たちが揃って提出した完成品を見た貴妃は――。


「わたくしは鳳家の花嫁衣装を着るわ」


 そう言って微笑んだのだ。

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